第6話 戦闘開始

 海保の人からの討伐戦の目的が説明された後も、青い空のもと波間を海上保安庁の船は変わらずシーウルフがいる海域に向け進む。

 そしてその船首にある機関銃の上に3人の少年少女達が浮遊していた。

 黒髪短髪の穏やかな目つきをした少年を真ん中に右手側に丸刈りの活発そうな少年、左手側に肩まで髪を伸ばした明るい雰囲気の少女の3人のハンター達である。

 そこで短髪の少年が船尾の上で浮遊しているであろう相川君をちらりと見た。

 相川君は浮遊するのに慣れていないのか、ふらふらしながら必死に船の船尾の上を飛んでいた。

 短髪の少年はその様子を見て危なっかしく感じる。

 だが何とか船に追従できているようなので、黙って見守ることにした。

 会話をするために目線を右隣で同じように浮遊している、丸刈りの少年に移す。


「相川君、参加できることになってよかったな」

「そうだよな、海保のオジサンが重い話をしだした時にはどうなるかと思ったけどな」


 そこに短髪の少年から見て左手側で浮遊していた女の子が、疑問を投げかけた。


「でも本当にシステムのエラーで入ってきたのかしら?」


 それは少年たち全員の疑問だ。

 あの後海保の人達から相川君はシステムのエラーでマッチメイキングされた、と説明を受けた。

 だがそんな話は他に聞いたことがなかったために、ここにいる全員が半ば信じられないでいる

 その疑問に対して短髪の少年が少女の疑問を否定するように答えた。


「でも本来討伐戦に参加できないランクD-の人が入るなんて、他に理由がないじゃんか」


 ランクとはハンターの信頼度を表した、車の免許のようなものだ。

 このランクが上なほどハンターは信頼を得ており、より強い魔獣との討伐戦に参加できる。

 そしてランクD-とはまだハンターになったばかりの人に付けられる仮免許ランクだ。

 ハンターは例外なくこのランクから始まり、チュートリアルと仮想空間での実践演習を受けてランクD、討伐戦に参加できる若葉マークランクになる。

 ランクD-の人が討伐戦に参加するのはシステム的に不可能になっており、エラー以外でこんなことが起こるのはあり得ないはずなのだ。


「あら、でも彼が大魔導士相川さんだったら可能じゃないかしら?」


 短髪の少年はたしかに日本を救った英雄である大魔導士相川なら可能かもと思う。

 彼にはいろいろなうわさが語られている。

 異世界に召喚された際に特殊能力が与えられ、未来予知ができるようになったともいわれている。

 少女はそんな彼なら特殊能力を使ってシステムに介入し、思い通りにできるのではないかと思っていた。

 また、大魔導士の方もフルネームは相川陽佑で、船尾にいる子と漢字まで一致している。

 短髪の少年は、これは本当に偶然の一致なのだろうか、と黙って考え込んでしまう。

 だが丸刈りの少年が少女の話しのおかしな点を指摘する。


「だったら何でわざわざランクD-なんて嘘をついてまで、討伐戦に参加するんだよ」

「それは……私にもよくわかんないけどさ」


 そこが短髪の少年にもわからなかった。

 大魔導士相川はすでに最高ランクである、ランクAになっている。

 システムに干渉しわざわざ下のランクに偽ったうえで、討伐戦に参加する理由なんてないはずだ。

 そんなことを短髪の少年達が話していると、船の無線から緊張した声で連絡が入る。


「目標、シーウルフ1発見」


 船のレーダーがシーウルフを捉えたらしい。

 続けて船から見て詳しい方角も無線が告げる。

 短髪の少年が連絡のあった方向に視線を向けると、すぐにシステムがシーウルフを捕捉し拡大表示してくれる。


 シーウルフ、下半身がサメで上半身が狼でありながら全長が5mくらいある大きな魔獣だ。

 また前足は発達した指が5本ありそれぞれに鋭い爪が備わっている。

 主な攻撃方法は鋭い爪による切り裂きと、口に並んだ牙による噛みつきの2種類だ。


 短髪の少年がメンバーのリーダーとして言葉を発する。


「戦闘準備だ」


 言葉と同時に左手に盾を右手に片手剣をアイテムメニューから取り出す。

 丸刈りの少年は長柄のハンマーを少女はハルバートを取り出した。

 相手が相手なので短髪の少年が念のため二人に注意を喚起する。


「リジェクトしないように気を付けて」


 リジェクト、通称死に戻り。

 マテリアルプロジェクターは1人につき一つの投影起点となるものを中心に、ハンターを投影する。

 またこの投影起点は様々なセンサーを積んでおり、ハンターの五感にもなっている。

 投影起点を破壊されるとハンターをその場に投影できなくなり、船上にある予備の投影起点に再度投影しなおしてもらわなければならない。

 この投影起点を破壊されてから再投影までの流れをリジェクトと言う。

 リジェクトをやってしまうと、大きく減点されてしまうので注意が必要なのだ。


 短髪の少年はそういえば相川君はこのことを知っているのだろうかと、一瞬疑問に思うがすぐに目前に迫っているシーウルフに意識を戻した。

 武器を構えてしばらく後に、浮遊している少年たちの直下にある機関銃が、シーウルフに射撃を開始する。

 ダン、ダン、ダン、という腹に響く重低音とともに弾丸がシーウルフに向け飛翔する。

 弾丸は吸い込まれるようにシーウルフに命中しダメージを与えてく。

 そしてシーウルフがこちらに気づき怒りの唸り声を上げながら向かってきた。

 短髪の少年が二人に向けて短く指示を出す。


「打合せ通りに行こう」


 二人の返事を聞きながら短髪の少年はシーウルフに向けて前進する。

 その右手後方に丸刈りの少年が、左手後方に少女が続いた。

 短髪の少年はその様子を視界端のレーダーで確認しながら、シーウルフに正面から挑みかかる。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 シーウルフが雄叫びを上げながら鋭い爪がある右手を振り上げ、短髪の少年に襲い掛かってきた。

 短髪の少年はすかさず意識の強化をし、シーウルフの動きがゆっくりしたものになる。

 そして振り下ろされる右手に盾をぶつけそらす。


「はあっ!」


 短髪の少年は意識の強化を解除し、すぐに楯を構え直す。

 そうやって何回か短髪の少年がシーウルフの攻撃を受け流す。

 その繰り返しにシーウルフが焦れてきたようで、右手を今まで以上に大きく振り上げる。

 その隙を逃さないように丸刈りの少年がシーウルフに横から近づく。


「おらあぁぁ!」


 そしてシーウルフの鳩尾に長柄のハンマーを振り下ろす。

 ハンマーは低い打撃を響かせシーウルフの腹にめり込んだ。

 シーウルフは苦しそうにもがき、その隙に丸刈りの少年はシーウルフから距離を取った。

 シーウルフは怒りの目で丸刈りの少年を睨みつける。

 すかさず丸刈りの少年からシーウルフを挟んで反対に側にいた少女が、ハルバートをシーウルフの背中に振り下ろす。

 シーウルフは悲鳴の唸り声を上げながら少女に攻撃しようと振り返る。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

「させないよ!」


 短髪の少年がすかさず近づきシーウルフの右肩に剣を振り下ろす。

 そのままシーウルフと正対しシーウルフの攻撃を受け続ける。

 そしてシーウルフが隙を見せたらすかさず丸刈りの少年と少女が横から攻撃をする。

 長柄の武器を持つ丸刈りの少年と少女の方が攻撃力を持っているが、シーウルフの腕はそれ以上のリーチを持っており近づくのが困難なのだ。

 そこで盾を持った短髪の少年がシーウルフを引き付けつけ、その隙に二人がシーウルフにダメージを与えるという作戦だ。

 作戦は上手くいきシーウルフは徐々に傷を深くし動きが鈍くなる。

 それに合わせ丸刈りの少年と少女の攻撃も激しくなっていく。

 短髪の少年がこれならそう時間をかけずに倒せそうだと安心する。

 その時だった。船から切羽詰まった声で


「敵襲!!」


 新手があらわれたことが告げられた。

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