第4話 必殺技を覚えちゃいました

 先程の大きな競技場に降りて一息ついた後、ディスプレイが次の能力についての説明を始めた。


「意識の強化とはハンターがより効率的に戦えるようにシステムがサポートする能力です。具体的には敵味方の位置を映すレーダー、遠くを拡大して視覚に移す望遠レンズ、背後の映像を視覚の端に投影するバックミラー、周りの状況を俯瞰視点で映すアラウンドビューモニターなどがあります」


 そう言って目線の端に背後の映像や、俯瞰視点での映像が表示される。

 どうやらこういった情報を視覚に直接映せるようだ。

 ディスプレイから説明が続けられる。


「また意識の強化では体感時間を加速させることも可能です」

「体感時間を引き延ばす?」


 それはつまり30分を体感時間1週間にするとかいうことだろうか。

 ディスプレイが実際に体験してみましょうと言い準備が始まる。


「前方に見える発射機からバレーボールが飛んできますので、十分近づいたらそのボールに対し意識を集中してみてください」


 立っている位置からやや離れた距離にバレーボール発射機が転送されてきた。

 バレーボール発射機はすぐに動き出し、ボールをこちらに向けて飛ばす。

 心の準備ができていなかったため少し戸惑いつつも、飛んできたボールに眉間に皺を寄せながら意識を集中させる。

 すぐにボールの動きがゆっくりとしたものになり、バレーボール発射機の駆動音が間延びして聞こえてくる。

 さらに望遠レンズも一緒に発動し、縫い目まで繊細に視覚情報でバレーボールをとらえられた。

 陽佑はまるでスローモーション映像の世界に立っているように感じつつ、あることを思いつく。

 映画みたいに上体をそらして避けたらカッコいいのではないかと。

 すぐに両手を頭の上に上げ上体をそらそうとする。

 そこである違和感に気づく。


「体が重い?」


 なぜか体の反応が遅いように感じたのだ。

 その感覚を奇妙に思いながらも、視界の端にバレーボールがゆっくり通り過ぎていくのが見えるとそちらに意識が向いた。

 そしてバレーボールが地面に落ちるまで体勢を維持した後にふと気を抜く。

 するとバレーボール発射機がだす音が間延びしたものから、通常のかん高い機械の動作音に変化する。

 視覚も望遠したような狭い範囲ではなく、通常の視野に戻っていた。

 そこで上体を起こしつつ体の調子を確認する。

 先程のように体の反応が遅いような違和感はなかった。


(意識の強化中しか感じないのかな?)


 こんど使ったときに確認してみようと決めながら、ディスプレイの言葉を待った。


「最後はスキルの説明です。スキルとは技の動きを記録したもので、スキルを発動されるとハンターの体が自動的に記録にある通りに動きます。まずはクイックムーブと唱えてください」


 陽佑は何も考えずにスキル、クイックムーブを発動させる。

 するといきなり景色が後方に流れ始め、強烈な風が顔にたたきつけられる。


「ええぇぇ!?」


 まったく心構えができていなかったために間抜けな悲鳴をあげながら、百数メートルの距離を一瞬で駆け抜ける。

 そして進んだ先でよろけながらへたり込んでしまった。


「はあはあ、速すぎだよぉ」


 あまりの突然の出来事に少し涙目になりながら抗議するが、当然誰も答える者はいなかった。

 ディスプレイからは無感情に先程使用したスキル、クイックムーブの説明が流れてくる。


「クイックムーブは前方に限界以上の速さで素早く移動できるスキルです。なおクイックムーブは連続して同じスキルを使用することはできませんので注意してください」


 陽佑は抗議をしても無駄に体力を使うだけだとさとった。

 ため息一つつき、目元にたまった涙を拭いよろよろと立ち上がり、次の説明を待つ。


「最後にもう一つのスキル、クイックスラッシュについて説明します。クイックスラッシュは高速の斬撃を3連続で相手に放つスキルです」


 その言葉を聞いた瞬間、陽佑は目を輝かせた。


「それって必殺技ってこと!!」


 先程までの疲労感とはうって変わって、陽佑は全身にやる気が満ちあふれてくるのを感じた。

 すると目の前に最初に出てきた鉄骨と同じものが転送されてきた。

 陽佑はディスプレイからの声に促される前に、剣を正面に構える。

 そして、続きが説明されるのをいまかいまかとまちのぞんだ


「それでは鉄骨に3回斬撃が入る様子をイメージしながら、クイックスラッシュと唱えてください」


 陽佑は鉄骨に3本の斬撃が線のようにはしるさまをサッとイメージする。


「クイックスラッシュ!!」


 スキルを力強く唱えると同時に剣が淡く緑色に発光し、体が勝手に動き出す。

 一瞬で鉄骨に斬撃を3回はしらせ、4分割にする。

 そして分割された鉄骨が思い出したように重力に引かれ、地面に落ちる音を響かせた。


「カッコいい! カッコいい!! カッコいい!!!!」


 まるで特撮ヒーローの必殺技のようなスキルに感動する。

 その後も何もない空間に向かって何度もクイックスラッシュを発動させ、その様子に見とれる。

 しばらく遊んでいるとディスプレイからこの場所でのチュートリアルが終了したことを告げられた。


「以上で3つの能力についての説明は終わりです。次に指導役からハンターとして討伐戦に臨む際の心得が説明されます」


 陽佑はどんな心得を教えてもらえるのか今からワクワクした。


(やっぱりどうやったら効率的に魔獣を倒せるか、とかが知りたいな)


 期待に胸をおどらせながら待っているとディスプレイから変な音が聞こえ始めた。


「それでは転送%&‘(*+?<)=)!#“」

「ええ?」


 ディスプレイから言葉とも音楽ともわからない音が流れ続ける。

 陽佑は戸惑いながら音を理解しようと耳を傾ける。

 だがまったく理解できずより困惑する。


「ええと、僕はどうすればよろしいんですか」


 ディスプレイに問いかけてみるも何も変わらず、理解できない音を出し続けた。

 と、唐突に変な音がやみ静寂が辺りを包み込んだ。


「??」


 陽佑は状況についていけずに困り果てる。

 するといきなり視界が黒一色に染まり、体が落下する感覚に襲われる


「うわー!」


 陽佑はなすすべもなく無限とも思える闇に落ちていった。

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