起
起きて起きて
わかってるって。もう起きてるから
そういっていつもまた寝るじゃない
寝間着に染み付いた桃の香り。私のとは違うからはっきり感じる。
瞼の向こう側に眩しい光と蠢く影を感じる。
頬をかすめる髪に寝ぼけた心臓がたたき起こされる。
ち、近いって。起きる、起きるってば
蘭「おねっ」
橘「おきt」
ごすっ
骨と骨がぶつかる鈍い音が和室に、和室、じゃない?
蘭「ごめんおねえちゃ、」
んじゃない。
橘「よかった。目を覚ましてくれて」
ひとまず夢を見ていたことは理解した、ことをここが私の家であればすんなりと受け入れたろう。
しかし目の前に広がる景色は白いカーテンに囲まれたベットの上。隣には心配そうにこちらを覗き込む見知らぬような見知ったような女性。
うーむ、まだ夢の中のようだ。
橘「もう熱はないですか?」
そっと額に延ばされた手に私は魂を抜かれたように抵抗を失って力なく上体がベットに吸い込まれる。
ちょっと
ふわりと桃の匂いがする。
橘「す、すいませんまさか倒れると思わなくて」
耳元でそう囁かれる吐息と重なる体からはっきりと体温を感じる。夢とは思えないぐらいに。
鼻腔を満たすこの匂いと肌に触れる柔らかい髪の毛の感触に何か私の記憶の片隅をつつかれた感じがしてまだぼんやりとしていた視界が開ける。
蘭「夢...」
橘「あ、えっとですね、夢じゃなくって、あっ」
彼女のみるみると赤く熟れる顔を見て相手の筋肉がきゅっと固くなったことまでわかってしまうこの状況を冷静に理解し始めどっと胸が熱くなる。
慌てて体を起こし彼女からさっと目を離す。
えっと、
橘「夢じゃなくって、夢じゃなくって、あ、今のは夢かもしれないけれど、私があなたを抱えてきて、えっと、えっと」
蘭「1ミリも理解できないです」
橘「す、すいません...」
そ、そんな見るからにしゅんとしなくても。
落ち着きましょう。そう言った私の頭と胸は彼女に掻き乱されて熱くなる。
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