橘 蜜華(2)



導入は難なくというか、当然台本通りというか。


後は生徒の自己紹介とやらに耳を傾けながら合間に台本に書かれた名前を読み上げれば良いだけだ。


たかだか自己紹介に何故この大層なホールに学年全員が集まるのかと疑問であったが、なるほどこの人数であればまとめて済ませてもである。


それに加え随分と事細かな自己紹介に驚く。


事前に考えておいたのだろう。皆とても流暢に話す。適当に済ませようという様な生徒も話が聞こえない様な生徒もいない。流石県内はおろか全国でも上位の女子校という雰囲気だ。


そろそろおわりかな。


健気な高校生が頑張って自己紹介をしている横で申し訳なさそうに原稿の後半を確認する。


いよいよ式の終わりを感じてほっと息をつく、にはまだ早い気がしてもう一度姿勢をただして横を見やる。


あー、あの娘。


席に座っている時から1人だけ以上にそわそわと挙動不審だったので舞台から非常に目立って見えた。


隣の女の子が心配そうに何度か話しかけている様子も見えていたのできっと緊張しいなのだろうと特別心配してはいなかった。


が、舞台の上に立った彼女の様子は明らかにおかしい。いや、先と比べてもである。


何かを直感的に感じ取って体が勝手に動いてどっとざわつく舞台下の音が大きく耳に響く。


声をかけに行った方がいいだろうか。いや話している人がいるのに今は。などという体を動かす前に生まれるべき葛藤が今更現れる。


気を失った少女がゆっくりと倒れ込んでくる。舞台袖すんでのところで受け止める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る