第28話 大きな神果は西瓜の味
がさがさ、と目の前の葉っぱが揺れ、ひょっこりとメネが顔を出す。
「此処にもあったよー」
「分かった。収穫するね」
メネがいた辺りの葉っぱを掻き分けると、人の顔ほどの大きさがある深緑色の神果が顔を覗かせた。
うん、大きいね。食べ応えありそうな実だ。
僕は持っていたナイフで、神果に付いている蔓を切った。
収穫した神果は、畑の横に置いてある荷車に積んだ。
荷車には、これまでに収穫した神果がごろごろと積まれている。
大漁だなぁ。
「これ、家に帰ったら一個味見してもいい?」
「いいよ。皮は食べられないから気を付けてね」
僕たちが今収穫している神果は大人のエルに食べさせるためのもので、その見た目は西瓜に似ている。
縞模様はないけど、皮がしっかりしていて固いし、大きい。庭先に置いて棒で叩きたくなるような実だ。
きっと中は赤くて瑞々しいんだろうな。
そんなことを考えながら、どんどん収穫作業を進めていく。
苺みたいな神果とは違って腕力を使うから作業は大変だったけど、それでも僕が空腹になる頃には、荷車が神果で一杯になった。
神果を収穫し終えた後の苗は、例のように引き抜いて畑の横の穴の中へ。
まっさらになった畑の土は、メネが魔法で新しい種を植えられるように整えてくれた。
「キラ、畑仕事するのに慣れてきたみたいだね。前より手早くなった気がするよ」
「そうかな?」
「うん」
僕はメネの言葉にちょっぴり笑顔になった。
自分ではあまりよく分からないけど、見る人が見るとちょっとした違いが分かるものなんだね。
植物の世話は好きだから、自分の腕前が認められたみたいで嬉しいな。
荷車を押して、僕たちは神果を家の中に運び込んだ。
大量にあるけど、家にはアイテムボックスがあるから保存場所には困らない。
どんどん、アイテムボックスの中に神果を入れていく。
ふと思ったけど、アイテムボックスってどれくらい物が入れられるんだろうね。
あんなにあった神果が全部入るくらいだから底なしってイメージがあるけど、やっぱり限界ってあるのかな。
まあ、いいか。知りたくても確かめようがないし。
僕は神果をひとつだけ流し台に置いて水で綺麗に洗い、まな板の上に載せた。
てっぺんからナイフを入れるが、やはり固い。ナイフの刃がなかなか通らない。
体重をかけて、少しずつ実を割るような感覚で切っていく。
ぱかっとふたつに割れた断面から、実と同じ色の赤い果汁が滴った。
やっぱり、西瓜だね。種があるところもそれっぽい。
食べやすい大きさに切り分けて、皿に盛っていく。
うん、夏っぽい。
皿を持って、僕はリビングに移動した。
リビングでは、メネが生命の揺り籠に置かれた卵をじっと見つめていた。
「卵、動いた?」
「ううん、まだだよ。生まれるまでもうちょっとかかるっぽい」
そろそろ卵を置いて一日経つけど、まだ生まれないか。
僕はメネをテーブル席に呼んだ。
「メネ、神果切ったよ。味見しよう」
「はぁい」
西瓜みたいな見た目の神果は、味もやっぱり西瓜で、素朴な甘さがとても美味しかった。
これからこの神果を食べるエルが増えることだし、張り切って畑の世話をしないとね。
窓の外を見ながら、僕はメネと一緒に神果の甘さを心行くまで堪能した。
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