第13話 再生を拒む者
牧場に足を運んだ僕たちは、目の前に広がる光景を呆然と見つめた。
牧場ができているはずの土地は、土があちこち掘り返され穴だらけになっており、とても開拓した土地だとは思えない有様になっていた。
これは、メネが魔法を掛ける前の状態よりも酷い。
「……嘘、何で……」
メネは信じられない、といった様子で牧場に近付いた。
そんな彼女に、高飛車な笑い声を掛ける者がいた。
「貴女の魔法は上書きさせてもらったわ。泣き虫メネちゃん」
「その声は……!」
きっ、と宙のある一点を睨むメネ。
彼女が注目する先に、黒い服を纏った黒髪、黒い羽の妖精が浮かんでいた。
「カエラ! 何でこんな酷いことを!」
「困るのよね、勝手なことをされたら。せっかく良い世界になったんですもの、それを崩されちゃたまったものじゃないわ」
カエラ、と呼ばれた妖精は、長い前髪を掻き上げて冷たい眼差しでメネのことを見つめた。
まるで、物陰から獲物を見つめる獣のような目だ。妖精の可愛らしさや可憐さといった雰囲気が全く感じられない。
「この世界は滅ぶべきなのよ。それを今更救おうだなんて無駄なこと、して何になるのかしら」
どうやらカエラは、僕たちがエルを育てて精霊を復活させることを良しとしていないらしい。
もしや、世界中の精霊が謎の死を遂げた原因というのは──?
僕は腕の中のレッドとメロンをしっかりと抱き抱えた。
レッドとメロンはエルとはいえまだ赤ちゃんだ。今カエラに目を付けられたら、この子たちはひとたまりもない。
僕がしっかりと、守ってあげないと。
「滅んでいい世界なんてない! メネは、絶対にこの世界を元通りの姿にしてみせるんだから!」
メネは両手を握り締めて、カエラに向かっていった。
力の篭った目でメネはカエラを睨む。
カエラは呆れたように溜め息をついた。
「メネちゃんはいつまで経ってもお子様だこと。理想論だけ掲げても、現実は何も変わらないというのに」
カエラの視線が、ちらりと僕に移る。
「……わざわざ異世界から人間を召喚してまでやることなのかしら。ラファニエルの考えることは、よく分からないわ」
まあいいわ、と言って、カエラは僕たちから距離を置いた。
「私は必ず貴方たちに、貴方たちがやろうとしていることが如何に愚かかということを思い知らせるわ。抗うつもりなら、せいぜい頑張ってみせなさい。その方が潰し甲斐があるというものよ」
ふっと笑って、彼女は遠くの空へと飛び去った。
メネは口をへの字に結んで、目茶苦茶にされた牧場を見つめている。
「……メネ」
僕はメネに声を掛けた。
「僕は諦めるつもりはないよ。この世界を、エルと精霊で一杯にしたいって思ってる。壊されたなら、もう一度作り直せばいいじゃないか」
「……うん」
メネは僕の顔の前に飛んできて、胸元に握り拳を作って言った。
「絶対、この世界を救おうね! カエラの嫌がらせなんかには負けないんだから!」
拳を突き出してくる。
これは、一緒に頑張ろうという合図だ。
僕は左手で拳を作り、メネの拳にこつんと当てた。
よーし、とメネは声を張り上げた。
「魔法、掛け直すよ!」
牧場の完成は明日に持ち越しか。
まあ、仕方ないよね。焦ってもしょうがないし、できることからこつこつとやっていこう。
それにしても……妨害してくる奴がいるなんて。何処の世界にも、悪い考えを持つ奴はいるものなんだなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます