第9話 庭造り
いいものがある、と言ってメネが僕を連れてきたのは、生命の揺り籠の傍に備え付けられているアイテムボックスの前だった。
この中には、神果の種や肥料といった農作業に使う品しか入っていないはずだが……
メネは僕にアイテムボックスを開くように言った。
一体、何だろう?
訝りながら、アイテムボックスの蓋を開く僕。
その手が、アイテムボックスの中身を目にした瞬間動きを止めた。
「! これって……」
アイテムボックスの中には、ミニチュアのテーブルやフェンスといった庭具が詰まっていた。
どれも大きさは人形サイズだが、遊具やランプなど、かなりの種類の道具が揃っている。
種や肥料は何処に消えたんだろう?
僕が目をぱちくりさせていると、アイテムボックスの中から適当な庭具を引っ張り出したメネが、言った。
「お庭造り用のデコレーションアイテムだよ。ここから好きな道具を選んだら、後は大きくするだけで簡単にお庭造りができちゃう魔法の道具なの」
へぇ、そんな便利な道具があるんだ。
これだけ小さいと持ち運びも楽だし、ジオラマを作る感覚で庭造りが楽しめそうだな。
流石は異世界、不思議な道具があるものだね。
「マスターは使いたい道具を選んでて。その間にメネは地面を平らにしてくるね」
「うん、分かった」
メネは外に飛んでいった。
残された僕は、アイテムボックスの中を物色した。
テーブルと椅子は絶対に欲しいでしょ、後は石畳と……噴水があるのもいいなぁ。
植木鉢、色々な種類があるね。色々な種類の花を植えたら絶対に綺麗だろうな。
みゃあ、とレッドが鳴きながらこちらによちよちと歩いてきた。
僕はレッドを抱き抱えた。
そうだなぁ……レッドがのびのびと遊べるような、そんな庭にしたいな。
……よし。
僕はレッドを抱いたまま、アイテムボックスから庭具を選んで取り出していった。
僕が庭具を抱えて家の外に行くと、丁度地面を均し終えたらしいメネが飛んできた。
「あ、マスター。お庭に置く道具選んだ?」
「うん。ほら、これ」
僕は腕の中のものをメネに見せた。
「それだけでいいの?」
メネが小首を傾げる。
僕は頷いた。
「うん、今はこれだけ。また後で追加するかもしれないけど」
「分かった。それじゃあ大きくするから、置きたい場所に置いてね」
──メネが均してくれた地面は、僕が駆け回っても余るくらいの広さがあった。
庭としては十分な広さだな。早速庭具を置いていこう。
僕は持ってきた庭具を次々と設置していった。
アンティーク調のテーブルと、椅子。傍には石を丸く組み合わせて作った池と、ランプ。
均した地面を囲むように柵を設置して、門を付けた。
地面は一面芝生にしてもらうつもりだ。
後は、木を植えてもらって……
うん、いいんじゃないかな。
「置いたよ」
「それじゃあ、大きくするね」
「あ、地面は芝生にしてほしいな。後、木も植えてほしいんだけど……」
「はぁーい」
メネの魔法は庭具を人間サイズに大きくして、緑溢れる庭を作ってくれた。
池は水魔法で水を満たされて、ランプには光魔法で明かりが灯される。
何の木かは分からないが、柵に沿うようにして植えられた木もいい感じだ。枝も立派だし、ハンモックを吊るしても良さそうだ。
「できたよー」
「ありがとう、メネ」
僕は完成した庭に足を踏み入れた。
真っ赤な空を見上げて、ふぅと小さく溜め息をつく。
「空が青かったらなぁ」
「仕方ないよ。この世界は滅びかけてるんだもの」
メネは腰に手を当てて、僕の隣に来た。
僕の顔を覗き込んで、諭すように続ける。
「その世界を救うために、マスターはエルを育ててるんでしょ。エルが増えて精霊が生まれれば、空もきっと元通りになるよ。頑張ろう?」
「そうだね」
メネの言葉に相槌を打って、僕は地平線に目を向けた。
何もない世界は、今は荒廃してるけれど。エルを増やして精霊がたくさん生まれたら、この庭みたく新しい命が芽吹くようになるのだろうか。
そうなるように頑張ろう、と僕は改めて決意したのだった。
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