僕の隣の席のメスゴリラ
まいまい
はじまりとおわり
僕の隣の席にはゴリラがいる。それもメスゴリラのようだ。クラスのみんなは受け入れているようだが、僕は受け入れきれないで、新学期が始まってから既に2ヶ月が過ぎてしまった。
彼女の名前は春野かすみさん。名前からすると全くゴリラっぽくはないのが、見た目が完全にゴリラである。しかも女の子らしく頭にリボンまでついてる。かわい子ぶっても所詮ゴリラにしか見えない。ちなみに、ゴリラゴリラ言っているのが、決して比喩でゴリラと言っている訳ではない。正真正銘動物園にいるゴリラなのである。もしかすると、他のみんなにはゴリラに見えていないのだろうか?ゴリラに対するみんなの反応が薄すぎるというか、普通に人間と接するようにみんな春野さんと会話をしている。
なぜ会話ができているのかも謎だ。僕にはゴリラの鳴き声でしか春野さんの声は聞こえないのだが、みんなはしっかりとコミュニケーションを取れている。僕は取れる気がしない。たまに春野さんから話しかけられるが、ウホウホとしか聞こえないため、毎回愛想笑いでごまかしている。最近その愛想笑いも限界に達してきた。どうごまかすか、というのが日々の課題である。
春野さんとは今年の4月から同じクラスになった。4月から高校の学年も進級し、クラス替えが行われ同じクラスになったのだ。去年は別々のクラスだったので、春野さんの存在に気づかなかったが、果たして1年間、同じ学年にゴリラがいて気づかないなんてことあるのだろうか?学年集会の時とかどうしてたんだよ。僕が気づいていなだけの可能性もあるが、恐らくそれはないだろう。
ここに一つの仮説を立てたい。春野さんは今年の4月から、僕にだけゴリラとして認識されるようになったのではないだろうか、と。そう考えると全ての辻褄が会うのである。他のクラスメイト全員が普通に会話していることや、去年1年間僕が同じ学年にゴリラがいたのに気づかなかったことなどを鑑みると、そうとしか考えられないのだ。その仮説が真だとして、一体どうしてそのような自体になったのだろうか?
一応言っておくが、僕はいたって普通な男子高校生である。特殊能力があるだとか、異世界転生してきただなんてバックグラウンドはない。もちろんドラッグなどの違法薬物なんてものも使っていないので、幻覚ではなかろう。彼女をゴリラとして認識してしまうのに、僕側の問題がないとすると、あとは彼女側の問題でしかなくなる。僕にだけゴリラとして認識されるような呪いを受けてしまった、などが考えられるが、そのような呪いをこの世界では見たことも聞いたこともないし、あまつさえ何故僕だけにゴリラにしか見えないのか、と言った問題さえある。呪われているとしたら僕の方なのでは?と考えた方が現実的である。それでも何故春野さんだけゴリラに見える呪いなんだよ、と世界に対してツッコミたくもなるが。
などと昼休みの間に一人でお弁当を食べながら考えていたところ、隣でお昼ご飯を食べる春野さんとその友人たちの会話が聞こえてきた。
「春野さんってゴリラなのに、本当に可愛いよね!」
僕はお弁当の残りを早々に食べきり、午後の授業まで寝たふりをして過ごす日常に戻った。
僕の隣の席のメスゴリラ まいまい @mai_mai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます