眠りの館

破死竜

眠りの館

 『事故物件検索サイト』というものがあるらしい。よく知らないのだけれど、法律(条例? 規則? なにか、そういう類のあれ)で決まっているとかで、建物に事故が起こったことは公開しなくてはならないことになっていて、その情報をまとめたサイトなのだという。


 で、そこで見つけたのがこの郊外のお屋敷。といっても、土地を相続した人たちが切り売りしたらしく、残っていたのは、そこの別館らしき小さな建物一つだけだったのだけれども。

 ここで起こった事故については、『眠ったままの住居人が発見される、200×年』という記事がサイトに書かれていた。たとえば、火事が起こった場合は建物が傷んでいるだろうし、自殺殺人の類は幽霊が出そうで怖い。でも、前に住んでた人がただ寝こけていただけの建物ならば、家賃の安さというメリットの方を私は選ぶのだった。


 契約を済ませ、家具を運びこむ。初日はやっぱり少し怖かったけれど、何事もなく目覚めた二日目の朝には、その恐怖も薄れてしまっていた。

 うん、これなら、住んでいけるかもしれない。



 「・・・・・・やっぱり、ダメだったんですか、今度の人も」

 「ああ、若くて健康そうな人だったんだがな、ずっと眠ったままだ」

 本館から兄弟は離れた建物を見つめていた。彼らは、そこの賃貸人、そして、以前に起こった事件の当事者でもあった。

 「あの別館で眠った人は、二度と起きてこない。死ぬわけでも無く、何かの病気が発見されるでもなく、ただ何もせずに眠り続ける」

 「一体、なんなんですか、あれは? ガスや周波も測定されない、不穏な経歴も・・・・・・」

 そこで弟らしき男性の方が口ごもった。

 「そう、だな、経歴はある。住人が眠り続ける、そんな前歴がな」

 二人の父親は、ある日その建物の中で眠り、そして二度と起きなかった。決して死ぬことはなく、かといって目覚めることもなかった。困った二人は、眠ったままの父親をその地下へと封じ込めたのだった。

 そして、その所有権は相続された。しかし、眠り続ける呪いもまた、引き継がれてしまったのだった。住人が誰に代わろうとも、必ずその人間は建物の中で眠りにつき、そして二度と目覚めない。


 郊外にある館。そこでは死者も病人も生まれなかった。ただ、眠りについたままの住人だけが増えていった。

 彼らの数は既に99人目。100人目の住人を待ちながら、彼らはその別館の地下で今も眠り続けている。

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