第3章 工場に響くは拳と断末魔!
「う~……」夜恵は居もまた、工場の入り口前で唸っていた。
昨日、乙愛と別れた後、案の定兎が廃人のようになり、練習用のレーンでも全員が口を閉じていた。
もちろん、兎が落ち込んでいるからでもあるが、志稲はその兎に対して言ったワンコは何も出来ない。を、いつまでも引きずっているのである。
夜恵はそんな2人を見ては、声をかけるのを躊躇しており、結局喋れなかった。
と、いうように昨日は残業をやり、19時までそんな調子だったのである。
「……う~ちゃんと志稲、今日も元気なかったらどうしよ」
夜恵は肩を落とし、トボトボとした足取りで工場に入ろうとする。
「……?」しかし、ふと声が聞こえてくる。工場の側面――そこから何事かと声が聞こえてくる。「誰かいるのかな――」
「あぅわぅ! 入口どこだっけ?」小柄で可愛らしい顔の人が建物の窓に向かって叫んでいるのである。「う~! こんな手でウチを阻むなんてぇ。少しは頭良くなったようだな!」
アホである。
そう、どこか犬っぽいアホである。
「あ、あのぉ?」夜恵は多少、この人物を警戒しながら声をかける。「どうかしました?」
「ほぇ? え? 女の人?」
「え? はい。産まれてこの方性別は女ですよ?」
「あ~……あっ! 新しい食堂の人ですかぁ。いつも美味しいごはんお疲れ様です!」よくわからない褒め方をしているが、この人物なりの褒め方なのだろう。
「へ? あ、ちが――」
「あのぉ、入り口ってどこですかぁ?」
「え、入口? それなら、そこだけど――」
「わっ! そうだそうだ、扉が閉まってたからわかんなくなっちゃったんだよぉ。いつもは兄様――じゃなくて、うさ……う~さんと一緒だったから」この人物は一通り言い訳をすると、すぐに笑顔になり、顔の横で狐を手で作る。「ありがとうございますワン!」
小さく舌を出し、人懐っこい笑顔で夜恵に礼を言う彼は入口に向かって歩き出した。
すると、その入り口付近で、駆け寄ってきた眼鏡の女性に青年が頭を撫でられているのが見え、そのまま工場の中へ入って行った。
「………………」夜恵はただ、それを眺めていた。
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