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「・・・恰好良かったから、ですかね」

「えー。それでバーテンになったの?」

「えぇ」

 にっこりとして言った。それから「蘭子さんは」と今度こそ続ける。

「お生まれはここでは無かったですよね? 確か鹿本グループの本社があるところ、だったと記憶しているのですが、どうしてここにお店を構えようと?」

 この辺りは大都会、とまでは言えないが田舎でもない。そこそこ近代化の進んだ住みやすい街だが、店を構えるならもっと都会でも構わなかったはずだ。

「え? うん、まぁ生まれはね。ここじゃないんだけどー・・・」

 少しだけ言いにくそうにする蘭子さんだが、なーんとなく想像はつく。なーんとなくだけど。

「うちの家ってほら男社会でしょ? 電化製品やら電波やらホテルやら旅行やら、いろいろ手広くやってんだけど、本家の子供がね、女の子しかいないのよね。それで、その長女が私ってわけ。だからさ、どうしても両親の顔を立てたくて私がお店を経営したいって言ってさ。どうにかこうにか宝石商を新しく作ることが出来たんだけど、どうしてもさ、私、その・・・」

 言葉が止まったので、磨いていたグラスから視線を外して顔を上げると、目が合った途端蘭子さんが急いで視線を外した。

「こ、浩太郎と離れたくなかったから・・・」と尻すぼみで言った。

 蘭子さんが言うには、こっちに先に就職が決まっていたのが浩太郎さんで、店を構える候補にここの地域があったので追いかけて来たそうだ。偶然を装って。装えたのかな、とも思うけど、きっと浩太郎さんなら偶然だと思ったんだろうなと思う。会ったことはないけど。

「だからここを選んだの。まぁ、結果としてここに店を構えてよかったなって思うわ。お客さんの質もいいし、立地も悪くないし。それに、マスターとも出会えたしね」

 パチン、とウインクを飛ばしてくる。もちろん他意はない。

 普通にしていたらモテるとは思うんだけどなぁ、なんて。まぁ、浩太郎さんを思う一筋な所も含めて、その魅力があるのかもしれないけれど。

「これからもよろしくね、マスター」

「えぇ、こちらこそ。どうぞ御贔屓に」



 バーテンになった理由が、格好良かったから。

 ってのは嘘。

と言っても全部が嘘じゃない。本当は早く自立がしたかったから。あと手に職を付けたかったから。大工とか肉体労働系よりこっちのがあってるって思ったし、育ててくれたマスターが本当に恰好良かったからだ。

 あと、あの言葉を忘れられなかったから。なんて、ね。

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