30話 空白の二週間
お盆が明けて、2週間ぶりに集合したジュース・デーの面々。
「ここしばらくママから解放されてたから、1週間ずっと一緒で、窒息死しそうだったわよ!」
「うちなんて、オカンがドイツのじいちゃんにキレちゃってさ~」
「私は仕事に徹した。さすがに連日はキツかったけどね」
お出掛け組み3人からは、出るわ出るわ、不平、不満、愚痴の数々と、それを面白おかしく聞く留守番組み。
彼らと会えなかった空白の二週間、私と冬翔くんの間に何があったのかは、もう一人の留守番組み、夏輝くんも含め、誰も知る由もありません。
「でね、これ、約束のお土産」
「あ、僕もお土産あるんだ。みんなでお揃いで付けたらいいかな、と思って」
「え? 私もお揃い」
そう言って、朋華ちゃんと聖くんが出したお土産は、まさかの丸被り。ハートと星のデザインの違いこそあれ、小さなチャームが付いたキーホルダーが色違いで6色、それが丸々2セット。
あまりの偶然に、目を丸くして12個のキーホルダーを眺めている中、気まずそうにしているもう一人のお出掛け組みの木の実ちゃん。
「え?」「何?」「って、まさかの…?」
「うん、そう、そのまさか」
おずおずと取り出したのは、同じく三日月のチャームのデザインで、テーブルに並べられた計18個のキーホルダーに、一瞬の沈黙の後、室内は大爆笑に包まれました。
「何これ、こんなことってある!?」
「日本とドイツとイタリアで、お土産が丸被りって!」
「今、世界中でこれが大流行してるってか!?」
「それだけ、心が通じ合ってるってことで」
「んじゃ、みんなで分けよう!」
「ね、どれにする?」「私はこれと…!」「僕、こっち!」
みんなでそれぞれ一種類ずつ、好みの色のキーホルダーを選び、自分だけのオリジナルの組み合わせが完成。ちなみに、
私は『緑のハート』『赤い星』『白い三日月』で、クリスマス風な色合わせ。
木の実ちゃんは『白いハート』『水色の星』『青の三日月』で、南国のビーチをイメージ。
朋華ちゃんは『赤いハート』『白い星』『ピンクの三日月』で、ラブリーに。
ですが、意味不明だったのは、黒のハートに黒の星、黄色の三日月を選ぼうとした聖くん。
「ちょっと聖くん、何、その色のチョイス?」
「え? 何で?」
「それ、自然界なら、警告色じゃん」
「蜂とか、ウミヘビとか、工事現場とか~」
「危険人物参上、的な?」
「てかさ、あんたって、どっか病んでるんじゃないの?」
「えー?? そうかな~???」
みんなに突っ込まれ、本人も自分の色彩感覚にすっかり自信を無くしてしまった様子。そこで、男子だけでもう一度シャッフルして、最終的に、
夏輝くんが『青いハート』『黒い星』『ラベンダーの三日月』
冬翔くんは『黄色いハート』『緑の星』『黒い三日月』
聖くんが『黒いハート』『青い星』『黄色の三日月』
ということで落ち着き、以後、それぞれが選んだハートの色が、私たちのトレードカラーになりました。
さて、お盆の間、父方の祖父母が住むドイツへ行っていた聖くん。
彼の父方の実家は、ドイツで製薬会社を経営しており、主に研究に使われる化学薬品や医薬品はじめ、殺虫剤や除草剤などの製品開発を手掛ける、ドイツ国内では中堅に位置する企業です。
医薬品の分野では、かねてから問題となっていた血液製剤の危険性に着目し、それを改善した新製品の引き合いが国内外から増加、ここ数年で急激に業績を伸ばしていました。
会社は一族経営で、現在は創業者の祖父に代わり、聖くんの伯父が社長を務めていましたが、伯父夫婦には子供がおらず、次期社長として白羽の矢が立てられたのが、聖くんの兄の
淵井詢さん、ドイツ名、マコト・ルードヴィヒ・フォン・リヒトホーフェン(Makoto Ludwig von Richthofen)、21歳。現在、祖父母の家に住みながら、ドイツの大学に通っています。
聖くんの父フランツさんは、その日本支社を任されており、現在の主要な販売は化学薬品で、医薬品に関しては、薬事法の関係で取り引き自体それほど多くはありませんでしたが、いずれ国で認証され解禁になれば、かなりの収益が見込める算段。
実際、日本でもその新薬を使用している患者はいましたが、保険が利かず全額負担となるうえ、個人輸入をするしかなく、まだインターネットがない時代、それは簡単なものではありませんでした。
夏輝くんもそうした患者の一人で、その販売元が同じ小学校のクラスメートだった聖くんの父方の実家であることを知った保さんは、フランツさんの仲介で本社と直接交渉し、新薬の購入に漕ぎ付けた次第です。
本人の仕事の関係もありましたが、彼が頻繁に渡欧していた理由の一つは、大切な息子のために、安全な薬を購入する目的があったからでした。
聖くんの祖父の構想では、長男の詢さんが本社を継ぎ、次男の聖くんには、父親の跡を継いで、日本及びアジア圏での業績の拡大を期待していたのですが、ここにリヒトホーフェン家での嫁舅の確執があったのです。
「ヴィルフリート、日本の学校はどうだ?」
「友達もたくさんいて、とっても楽しいよ」
「そうか。友達は大切にしなさい。だが、将来のことを考えるなら、そろそろこちらの学校への転入を考えないとな」
「そのことですけど」
午後のティータイムで、祖父と孫息子の会話に口を挟んだ、母親のひろ子さん。笑顔を浮かべてはいても、殺気だったオーラが全身から溢れ出していました。
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