そうして今回選んだのは四十代の夫婦だった。二人とも健康面で申し分なく、夫は会社員、妻は公務員で現在抱えているローンはなし。

もし私の妊娠中に夫がリストラされても、妻の支払能力はありそうだと頭の中で電卓を叩く。

今は私の専属マネージャーとなった細眉の男が

「選んで頂いてよかったです。実はかなりプッシュされていまして」

と、ほおっとため息をついた。

妻は私でなくても良かったらしいのだが、夫側から強烈なリクエストがあったらしい。


そりゃあね。

私はのどの奥でく、と笑い、テーブルに肘をつけ不細工な夫の写真を人差し指ではじいた。

たとえ産むだけの器だとしても、心理的に四十代のババアより二十代の若くて美人がいいに決まってる。男ってそんなもんだ。


「それで、」

と言い難そうにマネージャーが付け足す。

「自分達に子供を授けてくる人に是非会いたいと言ってるんですが・・・、どうされますか?」

私は片方の眉をつりあげた。

「夫から?」

「夫から」

私は無言のまま椅子にかけていたジャケットのポケットから乱暴に名刺入れを取り出し、中から数枚のカードを引っ張り出してトランプのように両手の中で広げた。宿主にコンタクトを取りたがるクライアントへの最低最小限度のサービス、宿主からの直筆のメッセージカード。ざっと見て今回はこれだな、と1枚に目を留める。

『主役は、お二人の所に来る為に生まれる子供です。脇役はいりません。主役を大事になさって下さい』

そのカードを人差し指と中指でつまんでマネージャーへ掲げ、

「断って」

とにっこりと笑った。


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