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「お待たせしました。ホワイト・スワンです」

 彼女の前に滑らせたのは、白いカクテルだ。

「わぁ、かわいい」

 彼女は少しだけ眠そうな垂れ目の瞳をパッと開いて、ショートグラスを手にした。

「頂きます」

 小さく傾けて、こくん、と喉を鳴らす。

「わ、杏仁豆腐」

「杏仁豆腐?」

「これ、杏仁豆腐の味がしますよっ」

 彼女に出したのはアマレットとミルクをシェークした、甘いデザートカクテルだ。

 すごーい! と繰り返し言ってくれるので、こちらも嬉しくなってくる。大当たり。

「お気に召されました?」

「はい、とっても! でもどうして私が杏仁好きだってわかったんですか?」

 いや、それはあてずっぽうだけど。

「お名前がキョウさん、とおっしゃるので」

「キョウ?」

「杏と言う漢字はキョウとも読みますでしょう?」

 本当にただそれだけだ。杏子と書いて“キョウコ”と読む知り合いがいるから、それでホワイト・スワンが浮かんだのだ。

それと女性客のオーダーが多いカクテルだったから。杏仁が好きな女性が多いし、当たるかなって。もちろん賭けだったけど。当たってよかった。

「へぇ、そうなんですね。私は響くに子供の子で、響子と読みます」

「へぇ、素敵なお名前ですね」

 自己紹介にいつものようにさらりと言葉を続けたのに、響子さんはボッと頬を赤くして照れくさそうにはにかんで笑った。

「え、ふふ。ありがとうございます」

 両手で顔を覆うその仕草が初心で可愛らしいなと思った。やっぱり凄く若いのかも。

「キョウちゃん、とっても可愛いでしょう?」

「えぇ」

 マリさんがにこにこ(にやにや?)しながら訊いて来たので頷いて答えた。またそれを見て響子さんがはにかむ。なんだこの可愛い生き物は。

「やめてくださいっ、からかうのは」

 その抵抗する言葉すら可愛いと思うのは、俺がおじさんになってしまったからなのだろうか。いや、そうじゃないはず。

「からかってなんかないですよね?」

「えぇ、ないです」

「も、もぉー!」

 耳まで真っ赤にして響子さんが怒った。

 マリさんが言うには、響子さんは凄い田舎の出身で、両親の反対を強引に押し切ってまでマリさんの勤めるファッションブランドに就職したらしい。

 自分の“好き”を仕事にしたい!

 その一心で頑張って来たんだと言っていた。

「分かりますよ、その気持ち」

「マスターにも分かりますか?」

「もちろん。私も“好き”を仕事にしたくてバーテンになりましたから」

 好きは大きな力になる。もちろん挫折も沢山繰り返してきた、辛い時もあった。けれどここまで来られたのは、その気持ちが強かったからだ。

「私も頑張ってよかった。こうしてお二人と出会えたのですから」

「マスター・・・」

「だから響子さん、これからも頑張ってくださいね」

 小さく笑って言うと、響子さんは小首を傾げるようにしてはにかんだ。

「はいっ」

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