4-⑱ この人は俺を心底理解してくれている……
「さて、それで本日はどのような御用でこちらにいらしたのですかな? かつての生徒会室ならまだしも、こちらではお茶すら出せませんので。長居をしてくださってもお構い出来ませんでしてな」
先ほどグレイが座っていた席に着くや、ヴァンは語りかけてきた。足と足を組んでの不遜な態度も付随させて。
そんな様子から放った当てつけ成分をたっぷり塗した
「……もって回った言い方を。お前らの巣窟を爆破した私達に対する嫌みか」
「その様に聞こえたのであれば、私の語彙力が貧困だったのでしょうな。これは失礼を致しました」
単語、敬語、文章の流れ。どれをとっても一応ヴァンは詫びをしているように見える。
ただ一つ顔に冷笑を浮かべたままなので、全くの逆効果を発揮していた。最もそれがヴァンの本心でもあったが。
「これ以上貴様のうまくもない当てこすりを聞いているのも不愉快だ。本題に入らせてもらおう。ヴァン・グランハウンド生徒会長。あなたは生徒会長に相応しくない。即時の退任を願いたい」
「……ほう、できればその理由をお聞きしたいものですな?」
「知れたこと。悪を目指そうとする男が生徒会長に相応しいわけがない」
組んでいたヴァンの足が僅かながら揺れた。
歓喜を隠し切れなかったことを責めるか、そこでとどめたことを褒めるべきか。評価は分かれるだろうが顔には表さなかったことは事実であった。
「私が悪と……失礼だが、何か思い違いをされているようですな。私は悪を目指してなどいません。私が目指すのはヴァルハラント学校の発展と、より良い学生生活を皆が送ることです。もちろんそのなかにはあなたも含まれております」
本音を言えば、ヴァンはジウソーの手を取りたかった。礼を言いたかった。謝礼を出してもよかった。
しかしそのいずれかを行っても喜ばないだろうし、それどころか困惑することが考えられる。その迷いが進む先に魔王は無い。そう判断したためヴァンはその未来を諦めた。
さらに言うならばそんな行為をすれば
「真正のツンデレなのでは? ちょっとおかしな人なのでは?」
と思考が進んでしまうことさえあり得る。
(それだけは避けなければならない……)
やっと、自らの夢へ押し上げてくれる集団が現れたのだ。
種が芽吹いたのだ! 枯らすことは万が一にも避けるべきなのだ。
ならば今ヴァンがすべきことは何か。悪役としての、素の自分をさらけ出すべきであると考えた。
しかしそれは
「はーい、その通りです! 僕魔王目指してます! 今まで不幸が重なってしまったので全部善行になったんでーす! 見抜いてくれてありがとうねー!」
と素直にジウソーに告白することではない。それはそれで迷宮に叩き込むが如き、惑いを生むものとなってしまうからだ。
それゆえ、ヴァンは一端しらばっくれることとした。その上で慇懃無礼な態度をとることで、相手の不愉快さを掻き立てることにした。
それは成功だったようで、ジウソーの顔が怒りに塗られていく。。
「この期に及んでまだそらっとぼける。往生際まで悪いとは……つくづく救えぬ悪党だ」
吐き捨てるように言い終えた後、ジウソーはヴァンに指を突きつけた。憎しみにも似た感情を目に持ちながら。
「はっきり言ってやろう。お前は真実に魔王を目指す悪の化身だ」
「!!!!!」
(ああ……この人は俺を心底理解してくれている……)
この瞬間、ヴァンの心は天国に救われた。
最も欲しくて求めていた言葉、向けられたかった感情と視線、糾弾しようと立つものと悪として迎え撃つ自分。
積年の恋が報われたかのような感情がヴァンを包む。だから感情は自制を振り切り、狂喜とさえいえる笑いがヴァンの顔に現れる。
そのためジウソーは疑惑の泥沼に沈んだ。
(何なのだこいつ……喜んでいる……? くそ、私を嘲笑っているのか! 突飛なことを考える可哀想な奴だとでも思ってるのか!)
「そのにやけた顔、いつまでもつのか見ものだな。私は何もお前に言いがかりをつけに来たわけではない。確たる証拠の元お前を悪だと断じたのだ」
ポケットから折り畳まれた紙を取りだし、広げる。ヴァンも視線こそ向けるが、思考はそこに向かっていなかった。ただただ先ほどの余韻を楽しんでいた。
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