第35話
「いやー、遅くなってすまないね二人共━━それに久しぶりだね、柚木、柚葉」
「お父さん! どうしてお父さんがここに!?」
影から現れた人物を見て、ずっと隠れていた柚葉の声が聞こえる。
少し白髪混じりの黒髪、身長は僕と同じで百八十近くある、そして精霊召喚士の証である胸元には天使の紋章━━あれは僕の父さん、如月
「父さん……どうしてここに?」
「まあ、いろいろあってな━━それよりも、ここは俺達に任せておけ」
父さんの姿を見たのはいつぶりだろうか、そう思えるくらい、会うのは久しぶりだ。
そして、「俺達」という言葉を聞いて、周りに知らない人が集まってるのに気付いた。
皆、父さんと一緒で精霊召喚士の紋章を付けている、おそらく仲間なんだろう。
父さんの手には何も持っていない、だけど威圧感を出し、雅をじっと睨み付けながら、
「君の精霊……精神に寄生するものだね?」
「━━なんでわかったの?」
「俺達の仲間には対象の精霊術や霊力術、精霊を見抜くのが得意な者がいてね━━君の手からはそれが感じられたみたいだよ」
父さんの言葉に、雅の表情が一気に強ばる。
精霊に寄生する精霊、僕も噂でしか聞いたことがない。
カノンの霊力術は相手の目を一定時間見つめると発動する、それと同じように一定の条件を満たせば相手を支配できる精霊がいる。
「そろそろ姿を現したらどうだ? 君の精霊をさ?」
「━━チッ、おいで
雅は聞こえるか聞こえないかわからないほど、小さい舌打ちをして、自分の前に手を出す。
すると、掌からは蝉の二倍の大きさをした姿を現した精霊が突如姿を現した。
「柚木、これでわかっただろ? 柚木は精神干渉を受けかけてたんだよ━━これ以上ここにいたらいけないんだ」
「でも、行く所なんて━━」
「━━ここから最北端を目指せ。そこには母さんの故郷があって、そこに【
「でも」
僕の言葉を遮るようにして、僕の目の前を槍のような物が通過した。
その飛んできた方向を見ると、反日本政府の神宮寺とその手下がこちらを睨んでいた。
「見つけたぞ……もう逃がさないからな━━お前ら早く捕まえろ!」
「あいつら、もう来たのか!」
「いま親子で話してるだろ? ━━影縫い!」
父さんは地面に手を付くと、一瞬にして反日本政府とコスタルカ、それに雅や侵略者の動きが止まる。
「これは……影の精霊の力か?」
「おっ、柚木の精霊は良く知ってるね」
アグニルの言葉に、父さんは満面の笑みをした。
全く動かない、目元は瞬きすらしない、まるで時間が止まって固まっているようだ。
今の内にあいつらを狙えば、そう思ったのだが、アグニルの言葉は続いた。
「影の精霊の力は相手の時間を止める。一見、最強な力ですが、動きを止めた対象には触れられない、という最大の難点があったはずですよね?」
「それもご存知だとは……そうなんだ、足止めくらいしかできないんだよね━━だから早いとこ逃げてくれるかな? あまり長い時間はもたないからさ」
「でも父さんは? 父さんはどうするんだよ!?」
苦しそうな父さんの姿を見て、言葉が勝手に出た。
確かに、僕達が逃げる時間は生まれる、だけど残った人達はどうする、反日本政府とコスタルカ達の相手を父さん達だけに任せるのか?
アグニルは僕の手を掴み、
「主様、残念ですがここは逃げましょう━━主様がいては二組の者達に狙われてしまい、主様を守って戦えばお父様方は不自由になります。ここはお父様達を信じて」
「でも、父さん達が━━」
「如月! 今のお前が残っても邪魔になるだけだ! ここは師匠を……お前の父親と仲間を信じろ!」
初めて仲神に本気で怒られた気がした、弱いのは自覚している、それに反論するつもりもない、きっと仲神は━━僕の身を心配して言ってくれているのだから。
それにアグニル達も、ずっと殺したいと思っていた相手を目の前に、逃げる事はきっと辛いはずだ、僕に力があれば━━。
「わかったよ、北の方に行けばいいんだね」
「……ああそうだ、気をつけて行けよ━━柚木の精霊達、柚木を、息子を頼んだよ」
「お任せください、私達がお守りしますから」
「任せておけ! 主様は私達が守るからな」
「━━まあ、私達に任せてください」
父さんの言葉に、アグニル、エンリヒート、カノンの順に応える。
そして、父さんは娘をじっと見つめ、
「柚葉はどうする? ここに残るか?」
「私は……私はお兄ちゃんに付いていくよ、この子達も心配だからね」
柚葉の手には三人の小人が抱えられていた、小さくなって何も喋らない、おそらく契約解除されてショックを受けたのだろう。
そして、仲神と恵斗は、
「私達はここに残る……如月、前に言ったよな? お前はもう普通の学生じゃないって、それを十分理解して行け」
「じゃあな柚木。俺達はお前の父親をお守りするから━━だからお前は生きろ、そして必ずこの腐った連中を捩じ伏せてくれ」
「わかりました、二人共、父さんをよろしく」
二人は元々父さんの仲間なのだろう。
だからここに残る事には何の違和感もないし、それが一番だと思った。
僕達は戦場に背中を向け、
「じゃあ父さん、もう行くよ━━またっ!」
「ああ行ってこい! 柚葉も気を付けて行くんだぞ」
「お兄ちゃんが守ってくれるから大丈夫━━死なないでよお父さん」
僕達は走り出す、敵のいない方向、赤く燃える街へと、そんな時、後ろから声が聞こえる。
「お前達も行って良かったのに、なんでここに残ったんだ?」
「私達は師匠に恩返しをしなきゃいけないからな、それに……私にはあいつらのような若さは無いから」
「彩夏姉さん……まだ二十二だよな? そんな変わらないと思うんだけど」
「━━まあ、その話は後にするか……そろそろ霊力が限界だから解除するぞ!」
後ろからは楽しそうなやり取りが聞こえた、それを聞いて僕は微かに笑った。
それを見られていたのか、僕の横を走るアグニルは、僕の顔を眺めながら、
「主様? どうかしました?」
「いいや、あんな状況でも笑えるのって、なんだか羨ましいなって思ってさ」
「あの人達には一緒に戦える仲間と、余裕があるんだよ━━でも安心していいぞ、主様にはもう仲間と呼べる私達がいる、それにいつか、笑えるほどの余裕もできるさ!」
「そうかな……いや、そうだね! 行こうか皆!」
アグニルとエンリヒートの言葉を聞いて、僕は拳を握りしめた。
前までは強さに何のこだわりは無かった、だけど今は、色々な人に出会って強さが欲しいと思っている━━誰かを守れる強さが。
そして、残って戦っている皆といつかまた会える、そう信じて。
僕達は走り続ける、最北端へ━━。
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