第32話
颯爽と現れた三人。
こんな最悪の状況なのになんだか嬉しく、まるで映画の1シーンを見てるみたいだった。
「おいおい━━
「そのまさかだが? そもそも私はお前の下についた覚えは無いぞ?」
再開を喜んでる時間は無かった。
神宮寺は深いため息をつき、仲神を呼び捨てにしている。刃向かう? なんの事だ?
仲神と神宮寺の間に何があるのか、それは知らない、だが初顔合わせ、という間柄ではない事は確かだ。
仲神は鋭い眼差しで睨みながら、言葉を続ける。
「私はお前にではなく、あの
「たぬき、やろう? まさかあの時の事を忘れたのか? お前を助けたのはこの私、神宮寺司だぞ?」
「助けてくれたのは、だろ? だがその後に私の面倒を見てくれたのはあの方だ、お前ではない」
神宮寺の顔がピクピク震えているのがわかった、だが仲神の表情は一切変わらない、まるで親の仇を見るような目で睨んでいた。
あの方とは何の事だ、それを今聞く余裕は無い。
ただ、二人が会話をしているから誰も動かない、これは少しの休憩のような気分だ。
そんな膠着状態の中、カノンと柚葉が僕達の所まで歩み寄ってくる、柚葉の表情は暗い、きっと色々なものを見てきたのだろう。
「お兄ちゃん……この世界で何が起きてるの?」
「終わったら、終わったらちゃんと話すから」
不安な妹にこう言葉を伝える事しかできなかった、終わったら━━何が終わったらなのか、どこまでいけば終わりなのか、それは自分自身でもわからない。
そんな柚葉の手を握るカノンは、
「今の内に打開策を考えましょう━━数では不利、実力でも劣っている可能性はあります。どうしますか、主様?」
「そうだね……」
どうしたらいいか、それを僕に委ねるのか。
人数は、向こうが十人弱、だがこちらは六人、その中には柚葉も含んだ人数、戦えるのは五人、単純に一人が二人を相手する計算なのか。
僕の思考とは別に、仲神と神宮寺の話は終わりを迎えていたのか、神宮寺は首を横に振り、
「━━いいんだな? もう戻れないぞ?」
「ああ、戻る気もなにも、お前の所にいた記憶はないからな」
「そうか……お前がいるって事は、一緒にあのガキもいるんだろ、出てきたらどうだ?」
神宮寺は仲神ではなく、天に呼び掛ける。
その瞬間、仲神の後ろから人が現れた。言葉通り何も無い所から急に現れた。
その姿を見て、僕は声を出さずにはいられなかった。
「━━恵斗!!」
「よっ柚木、俺の忠告通り動いてくれて嬉しいよ」
屈託のない笑顔、間違いなく恵斗だった。
そして、やっぱり恵斗の言った通り召喚士が助けてくれた、人数は過去の記憶から二人に増えたが。
「悪いが俺もあなたの側から離れさせてもらうぜ、あの方の頼みだからな」
「ちっ、これだからあの女の心酔者は━━もういい、お前ら、邪魔者を排除しろ!」
神宮寺の言葉を聞いて精霊召喚士達は、次々に詠唱を始める。
「如月! そっちは任せた、こっちは任せろ」
「えっ、はい! 三人共いくよ!」
「「「 了解! 」」」
向こうの精霊召喚士達は綺麗に半分に別れていた、僕達が相手するのは五人と精霊達、仲神と恵斗が相手するのは五人、正直大丈夫なのか? とも思ったが、
「確かに個々の実力は高いな━━
「だけど連携は酷い、所詮は寄せ集めですね、
二人は優勢とは言えないが、なんとか戦えているという状態か、恵斗も何処か慣れた雰囲気がある━━聞きたい事は沢山ある、だけど今は、
「さて、私も行くよ━━焔竜の舞い」
「主様に仇なす者は排除する━━
二人も次々に術を使い、攻撃している━━だけど敵が強い、恵斗の言ったように連携は無いけど、個々の実力が非常に高く、これが経験の差というものか。
「いくら個人の実力が高くても人数で不利な場合、実力以上の力を発揮する事は理解しているだろ? 諦めたらどうだ?」
「━━くっ、確かにな」
神宮寺はニヤニヤしながら問い掛けてくる、お前は動かないのに偉そうに━━だが仲神も苦しそうだ、それに他の皆も。
「主様……このまま戦闘を続けても━━おそらく全滅するでしょう、何か手を打たないと」
「手を打つと言ってもいったい━━」
カノンの表情は重い、何か策を練らないと厳しい、というのがカノンの意見なのだろう。
カノンの意見は基本的に正しい、それは身を持って体験している。
それに状況が劣勢なのは見るからに明らか━━なら、今考える事は逃げる事。
奴らには苛立つし、殴りたいと思うのは確かだ、だが感情に流されて行動しても意味はない。
それに、ここで相手を捩じ伏せる事にこだわりは無い。
いつか再戦する時に捩じ伏せればいい、今日、この場で、全てが決まるわけじゃない、それに逃げきる事も今のこの状況なら勝利と言えるだろう。
「━━カノン、逃げる方法を考えよう」
「わかりました、ですが相手も実力者。不意をついて逃げるしか方法は無いですよ」
「……不意か」
いま、僕らには誰も向かってこない、それは他の四人が必死に止めてくれているからだ。
だから僕とカノンは最善の策を思いつき、それを実行する必要があった、簡略な策では逃げられない、絶対に逃げられる方法を。
僕は辺りを見渡す━━地形は学院を出た崩れた庭園、周りに僕ら以外の人はいない。
『主様……そろそろ限界だぜ!』
『わかってる……もうちょっと耐えてくれ』
『さっきはカッコいい事言ったが━━正直こいつらの実力は高いな、かなりの実力者を集めてやがる、何か打開策は無いのか?』
エンリヒートと仲神の声が頭の中で聞こえる。
何か策を、と言われても━━だが、ふと上を見上げ、
「カノン……この弓は僕の霊力によって威力が変わるんだよね?」
「ええ、主様の霊力によって━━もしかして?」
僕の視線の先を見て、カノンは理解したのか、コクりと頷き、
「主様ならできますよ……念のために私も
「頼むよ!」
『皆、合図を出したら僕の所まで走ってきて、そのまま逃げよう』
『『 了解! 』』
『わかった! 私も行動を起こす時に何かしらの術で足を止める』
恵斗には届かないが、おそらく仲神が寸前のところで伝えてくれるだろう。
僕は金色に輝く弓を構え、上空へと向ける━━威力はできるだけ強く、大きさは……大きさよりも横幅を広く。
『三……二……一、━━今だ!』
「おいでおいで、私の可愛い羊さん達━━
「冬国の小さな精霊達よ、神秘の術、奇跡の力を我に与えたまえ━━
僕の放った矢は電灯よりも眩い光を放ち、学院である崩壊寸前の大きな建物を上と下に斜めに切り分ける。そして、滑るようにして崩れ落ち、その下には、反日本政府の精霊召喚士十人と、神宮寺しかいない。
彼等は意識していなかった、というより目の前の相手に集中していたのだろう、避ける事ができず、精霊達に建物を押さえるように指示を出す。
そして仲神は、精霊術である細氷結晶を使った。
周りに輝かしい光を放ちながらごく小さな氷晶を作り出す。
触れると微量な痛みが襲うのだろう、反日本政府の奴らは嫌な顔をしている。
カノンは相変わらず可愛い羊達を何体も出し、彼等が追ってこないようにして、僕達との間に羊の壁を作った。
「今の内にここから離れよう!」
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