第28話
「それで……恵斗さんが言ってた、四人組に絡まれたって話はなんだったの?」
頬が痛い、きっと赤くなっているんだろうな。てかあそこまで強く叩かなくたっていいじゃんか、それに全然話聞いてくれないし。
「お兄ちゃん! 聞いてんの!?」
「はい! 聞いて、ます」
柚葉の表情は怒ってる、顔を赤くして、膝を何度も叩いて良い音が響いていた。
他の三人は━━相変わらずというべきか、エンリヒートは僕を馬鹿にするように、「はっはっは」と高笑いをしている。
アグニルは瓶牛乳を両手で持ち、効果音付きで飲み続けている。
カノンは……ずっと顔を赤くして下を向いたままだ、まだ照れてるのか。
━━とりあえず、
「恵斗が話していたのは確か、そう僕達が十歳くらいだった頃かな━━」
僕は説明が下手だ、だが自分なりの解釈で、尚且つ簡潔に話を進めた。
━━子供の頃、二人で近所の川で釣りをしていた、その時に四人組の中学生に絡まれて僕と恵斗はその場から逃げた━━必死に、だけど追い付かれて、その時、
「知らない召喚士が助けてくれたんだ」
「んー、なんとなくですがわかりました、ただそれが何を意味するのか、あの人が何を伝えたかったのか━━全く不明ですね」
「ただそういう事が起きるって事じゃないか? それを恵斗って人は伝えようとしたんじゃないのか?」
僕達は頭をフル回転させ考えるが、全く結論が出ない、もし四人組に絡まれる事を言いたかったのなら、この先そういう事が起きるのかもしれない。
もし誰かが助けてくれる事を言いたかったのなら、僕達を助けてくれる人が現れるのかもしれない。
結局━━恵斗の言いたかった事は不明だ、そして、彼が何かを知っていて、これから先何かに関わってくる事は明確になってしまった、残念だが。
「そんなわけのわからない話より、次の対戦相手の話をしなくていいの!?」
「あっそうか、柚葉、次の相手って?」
「もう! さっき資料渡したじゃん! 次は五年の林崎 シノさんとシルフィーって精霊ちゃんだよ!」
頬を膨らまし不機嫌な柚葉の言葉を聞いて、「うわっ」と声を漏らしてしまった。
予選で敗戦した二人組、シノとシルフィー。あの頃は手も足もでなかった。
正直さっきよりも緊張する。一度負けた相手との再戦だから。
だが他の三人は何処か嬉しそうだった。
「よっしゃー! いいねぇー、こんな早くリベンジできるとは」
「……主様を侮辱したあの憎たらしい精霊、今度こそけちょんけちょんにしてやる」
「まあ、私がいるので前回みたいに無様な敗戦はしないと思いますが」
三人は気合い十分みたいだ、例えるなら目には真っ赤な炎が燃えているような、そんな雰囲気だ。
そんな三人から離れ、柚葉は僕に耳打ちをする。
「ねえねえお兄ちゃん、何かあったの? さっきまで沈んでたのに」
「まあね……色々と因縁みたいなのがあってさ、だから三人共燃えてるんだよ」
柚葉は「ふーん」と言って三人と一緒に盛り上がりだした。
なんでこんなに盛り上がれるのかな? と疑問に思う。本来ならもっと先に当たりたかった、そう思ってる僕はおかしいのか? 強者と戦える事を喜ぶべきなのか?
そんなお祭り騒ぎの中、再び扉が叩かれる。
「如月 柚木さん……時間です」
さっきの人より声が低い、さすがに疲れてるのか━━時間も十四時を過ぎてるからな。
「じゃあ行こうか!」
「「「「 おー! 」」」」
ライトに照された灯りの道を、僕達は再び歩きだす。
だがさっきと周りの雰囲気が一つだけ違う。
誰かわからない、だけど同じ制服を着た生徒が五、六人、通路の壁によしかかり、僕らを見ている━━というよりは。
そして、頭の中に聞き覚えのある声が響く。
『皆さん……聞こえますか?』
『聞こえるぜ、嫌な空気だな。こいつらが私達を睨んでいるように……そう私は感じるんだけど』
『やっぱり皆もそう思う?』
『来るなら……今か、それともこの先か。ですね』
カノンのお陰で、口を開かなくても会話ができる、だが三人の声と行動は全く違った、エンリヒートは口笛を吹きながら僕の右前を歩き、カノンは、「柚葉ちゃん、緊張してるので手を握って下さい」と柚葉の手を握り、隣に密着している。
そして、アグニルは僕の手を握ってる、これは完全に周囲を警戒している。それは理解できた。
僕自身、警戒はしていた。だが、何も起きないまま、会場の扉を開いた。
━━なんだ何も無いんだ、そう思ったのだが。
「ここからは妹さんには危険なので、私達と一緒に上の観覧席に来てもらいます」
「……どうしてですか? さっきは全然そんな事は無かったですよね、僕達の側で」
「すみません、決まりなので」
「いやいやあんたら!」
「すみません、決まりなので」
何を言っても、「すみません決まりなので」としか言わない、それになんだろうか、学生服を着てるけど少し老けてる? そんな感じがする。
そんな話の進まない状態の中、カノンは一歩、僕らの前に出て、手を大きく広げ金色に輝く弓を召喚する。
その姿を見ていた周りの学生服を着た男女の体が少し動いたのを感じた。
その様子を見て、カノンは少し微笑み、
「あの、ここにゴミが付いてますよ?」
「えっ? あっ、ありがとう」
そう言って、カノンは目の前の男性に、自分の目を指差す、男性はカノンの目を見つめ、ゴミを探すが「あっすみません、ゴミじゃなかったです」と言って、笑いながら僕らを見る。
「主様、私は体調が優れないので柚葉ちゃんと一緒に見ています━━お気をつけて」
「あっ、うんわかったよ」
カノンはそう言って、柚葉と一緒に来た道を戻っていった。
だが、頭の中に響いた声は、
『狙ってくるのは試合中です、霊力術を使って彼の音を聞きました。お姉ちゃん達、壁をできるだけ破壊するように、派手にやってください』
『了解だ……そっちは頼んだぞ、妹ちゃんを守ってやれよ』
『わかってますよ、何かあったら声をかけます、それでは』
カノンの声が途切れた、始まるのか、今から。
「安心しろ主様、私達が付いてるからな!」
「主様? そんな緊張しないでください、私達まで緊張してしまいます」
「……緊張してるように見えるかな? そうだね、強敵を相手にしながら、他にも目を光らせるんだから━━でも大丈夫、カノンもいる、それに二人も、僕は三人を信頼してるから」
初めて男らしい事を言った、そんな気がする。だけど本当の事だ、前に仲神に教わった、お互いを信頼しろ、今ならその言葉の理由がわかる気がする。
そして僕達は会場に上がる階段を一段一段、ゆっくり上がる、そして、マイクから流れる声が聞こえた。
『それでは二回戦、第三試合を行います!!』
歓声が鳴り響く、一回戦と何も変わらない。
『まず、入場したのは三年生の如月柚木選手です! ってあれ? もう一人の精霊がいませんねー』
『温存……かな、温存できる相手ではないと思うんだけどな』
『そうですね、これが吉と出るか凶と出るか━━続きまして四年生、林崎シノさんです!』
『今大会の優勝候補、四年生にしては凄まじい程、連携が確立されてるからね、今回どんな戦いを見せてくるか楽しみだよ』
散々な言われようだな、まあそうか。というか優勝候補だったんだ。それすらも知らない僕って━━知らなさすぎか?
そして、目の前にはエルフの精霊シルフィーと、その主である銀髪のシノ、その表情には笑顔が見える。
「なーんだ逃げなかったんだエンリヒート。って、そういえばもう一人のちんちくりんはどうしたの?」
「カノンなら疲れたから休ませてるよシルフィー、そういえば、いつからそんな喧嘩腰になったんだ? 可愛らしい顔が台無しだぞ?」
「口が悪くても可愛いものは可愛いのよ、あんたたちちんちくりんと違ってね━━というより、温存って……私達も舐められたものだねシノ?」
「そうね、如月君……それで勝てると思うの?」
「どうでしょうか━━でも、僕の精霊の方があなたの精霊より強いですし、なにより可愛いですから!」
「「主様!」」
「「……ロリコンの主が!」」
シノとシルフィーからは舌打ち、アグニルとエンリヒートからは満面の笑み。
完全に怒らしたな、これ━━だけど、なんだか言われっぱなしもむかつくんだよな。
━━そして、
「「来い、風の槍よ!」」
「来い、雷の剣よ!」
「来い、火焔の剣よ!」
「さて二人共、カノンに言われた通り派手に行こうか!」
「「了解」」
『それでは二回戦、第二試合、開始です!』
『3……2……1━━GO!!』
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