第13話
精霊舞術祭への出場報告は、基本的には教師なら誰でも良いのだが、色々とお世話になっているため、仲神に伝える事にした。
「僕も精霊舞術祭に出ようと思います」
「ほぉー、出る事にしたのか」
教師達が忙しそうに仕事をしている中、僕の前にはいつも通りの黒いスーツを雑に着て、暇そうにしている仲神が椅子に座っている。
わざとらしく驚いて見せる仲神を見たら、僕が出場する事は予想通りだった事が予想できた。
「お前はあまり興味が無いと思ったが……あの二人に何か言われたのか?」
「まあ、そうですね……一応は戦闘技術の向上した方がいいって二人に言われまして」
決して嘘は付いてないと思う、アグニルが出たいと言っていた、それに強い精霊召喚士も出るから成長にも繋がる━━決してエンリヒートに言われた事が理由ではない、はず。
そんな僕の内心までは読み取れなかったみたいだ、仲神は書類を用意して、
「これが参加表明書だ。今日の午後から行う参加者を集めた説明の時に必要事項を記入して提出しろ」
「わかりました……その時二人はどうしたら?」
「大人しくしているなら同伴は許す……まあ、お前が静かにさせられるならの話だが」
仲神は椅子の背もたれによしかかり、刺々しい言葉を投げ掛けてくる。
僕を二人よりも立場の弱い人間だと思っているのか。
━━僕にも大人しくさせる事はできる、と反論しようとしたが、仲神の不適の笑みを見て、反論するのを辞めた。
それにはっきりと仲神に言える自信も、アグニルとエンリヒートに言える自信も僕には無い。
「そういえばあの二人はどうした?」
「二人なら廊下で待っててもらってます……さすがにうるさくなりそうなので」
「そうか、それなら丁度いいな。……ついてこい」
仲神は僕の話を聞いて二回、首を縦に振り頷く。
━━何が丁度いいのか。
仲神はだるそうにしながら体を起こし、壁際の部屋へて歩いていく。
僕は仲神の後ろを歩いてついていくと、中は机と二つの椅子が置いてあるだけの寂しい部屋、そして防音対策のされた壁に案内というよりは連れてかれた。
いったい何を話されるのか、仲神に椅子に座るよう促される。
「……一応教師達にはあの二人の事は、双子の精霊と伝えといた」
「━━双子!?」
仲神の言葉を聞いて空いた口が塞がらない。
アグニルは青みがかった白髪で、エンリヒートは炎のような綺麗な赤髪、全然色も顔も何から何まで違う。
さすがに無理があるのではないか━━、そう思って仲神を見ると、
「私も無理があるのは理解してる……だが他に良い案が見つからなかったんだ」
「まあそうですよね、他の先生達はなんて言ってるんですか?」
「……可愛らしい双子の精霊ですね……だってよ」
仲神は馬鹿にしているように鼻で笑っている。
いくら教師とはいえ、僕も少し馬鹿にしそうになった、どうして何も疑問に思わないのだろうか。不思議でしょうがない。
そんな話を聞いていたら僕の顔も自然と苦笑いしていた、そんな僕を見て、
「そういえば、二人からはあの後何か聞いたか?」
「えっ? いえ、とくには」
仲神の唐突な言葉に、歯切れの悪い言葉を返し、明らかに僕の顔は動揺しているだろう。
別に二人には口止めされてないし、仲神は信用できる教師だ、だがなんとなく━━。内緒にしておいた方が良い気がした。
そんな僕の動揺した様子を確認しながら、
「そうか……何かあったら伝えろよ? ……話は以上だ」
「あっはい、わかりました」
何か疑っているような間が空いたが、特にそれ以上は何も聞かれないで解放された。
僕は椅子に座る仲神にお辞儀をして、足早に二人のもとへと向かった。
他の教師達は誰一人として僕の姿には目もくれず、目の前の机に置かれた書類の山に悪戦苦闘している。
廊下に出ると二人は壁によしかかって待っていた、まるで子供がお母さんを待つような姿だ。
そんな二人は、僕の顔を見た瞬間晴れやかな表情を見せ、
「主様!! 全然戻らないから心配しましたよ!!」
「……何に心配する事があるのさ」
「私なんか寂しすぎてショック死するかと思ったぜ!!」
アグニルは僕の足にしがみつき顔をすりすりさせてくる、そしてエンリヒートは高々と笑いながら僕の手を握ってくる。
アグニルは何に心配したのか、そしてエンリヒートは何故ウサギのような例えをするのか、全く理解できない。
そんな二人と楽しく話をしていると、周りに人が集まってるのに気づいた、そんな周りの学生達は囁く声で、
「……ねぇあれって精霊?」
「小さい子供の精霊と何楽しんでんだよ」
「あれっ如月君だよね? あんな子供が好きだったのかな?」
周りからは僕らの関係を疑う声や非難する声が様々な方向から聞こえる。
その声は当然、二人の耳にも入っているのだろう、二人は周りを威嚇するように見回し、眉間に皺を寄せ、
「何か言いたい事があるならはっきり言ったらどうだ!?」
「主様を馬鹿にするやつは私が許さない!!」
今にも戦闘態勢に入りそうな二人、周りの学生達は後ろに下がり僕らと距離をとる。
僕はそんな二人を両肩に抱え、逃げるようにして走った。
━━どうしてこんな状況に、これじゃあ二人の少女を連れ去ったみたいじゃないか。
両肩に抱えられた二人からは「調子に乗るなよクソガキが!!」や「主様を馬鹿にするなガキが!!」と、可愛らしい容姿が台無しの罵声を浴びせてる、どちらかというと二人の方が子供なのだが、それを言ったらもっと機嫌が悪くなるのだろうなと思う。
僕は走れる所まで走って教室まで戻った。
「おっ、両手に華とは羨ましいね!!」
「他人事だと思って楽しそうに……こっちは大変だったんだよ?」
「主様!! 言われっぱなしでいいんですか!?」
僕の机の前には、馬鹿にするような皮肉を言って、口を大きく開いて大笑いする恵斗の姿。
そんな恵斗を見て、なんだかほっとした気持ちになった、こうやって言われたほうが何倍も楽だ。
僕は二人を肩から下ろすと、二人は僕の行動に不満があるのだろう、さっきまで他の生徒に向けていた怒りを僕に向けてくる。
「二人には悪いけど、あまり問題は起こしたくないんだ、色々と目立ちたくないからね」
「ううー……主様が言うなら━━、我慢しますが」
我慢すると言ったアグニルはまだ頬を膨らまし、顔を少し赤くさせている。まだ怒りは収まらないのだろう。
そんなアグニルを苦笑いを浮かべながら見ていると、不意に後ろから声をかけられた。
「おはようございます、如月君も精霊舞術祭に出るって話を聞いたんですけど本当ですか?」
「おはよう雅、一応ね……もってことは雅も出るんだ?」
「そりゃあほとんどの生徒が出るだろうよ、皆の目標みたいなもんだからな」
僕の顔を見た雅が、黒髪を揺らしながらお辞儀をする、彼女の髪が揺れる度、少しシャンプーの甘い香りがする。
毎年参加者が沢山いるのがこの大会、去年僕も観客席から見ていたが、壮絶な戦いが繰り広げられていたのを今でも覚えている。
「そういう恵斗は出るの?」
「俺はめんどくさいから……今回は二人の応援だな!!」
「やっぱり……言うと思ったよ」
恵斗はこういう行事には一切出ないのを、この三年間見てきた。だから不思議に思う事も驚く事も無かった。
「そういえば二人は優勝候補って言われてる生徒は知ってるよな?」
「優勝候補? 誰だろ?」
「私も知らないです」
僕と雅の言葉に、深いため息をつく恵斗。
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