この子の七つの

不動(いするぎ)薫

この子の七つの

あけみちゃんは三方を水で囲まれた団地の一角に住んでいた。二階建てのアパートの外壁に沿った階段を上ったところに部屋がある。

あけみちゃんは実は不倫をしている。元職場の上司らしい。生活の面倒もみてもらっている。あけみちゃんの話によると、彼氏の嫁は鬼嫁らしい。彼氏は肺を患っていて、酸素ボンベを背負って彼女の家にやって来る。彼氏は婿養子だ。そんな体でもボンベを背負って草刈りをさせられ、家事もこなす。そんな日々を癒してくれる存在が彼女というよくあるパターンだ。

 水に囲まれた処は寒い。物理的な寒さではない。霊的な寒さと私は呼ぶ。あけみちゃんは、最近太ったそうだ。(10キロ以上)歩けなくなり、乳母車を押して歩き何とか車にたどり着き買い物に出かけていた。これは変だ。なにかある、と私が呼ばれるわけだ。

 私が行く所の人はみんな同じ。科学的に説明せよと言われるならできなくもない。活性酸素が、体内のコラーゲンと結び付いた結果だ。体はどんどん固くなり、体はますます重くなる。これがストレスの正体。

 実はここには女の子がいた。三才くらいだろうか。あけみちゃんは出産経験はない。もちろんこの世のものではなく、遊びに来ているのだ。水のあるところには霊が寄る。交差点や踏み切りもそうだ。遊んでほしくてやって来た女の子は私にもまとわりついて、髪の毛を引っ張ったり、背中にのったり、やりたい放題。あけみちゃんが乳母車なんか押していたのも、そういうわけだ。私が施術にかよいはじめてから、あけみちゃんは14キロも体重が減った。だから彼氏も見てほしい、ということで、私は二人に関わることになったというわけだ。

 何回か通ううち、彼氏も調子がよくなり、酸素の目盛が2から1になったと喜んでいた。時々外しても大丈夫になったそうだ。

 そこで私は質問した。

このまま施術を継続しますか?

 ふたりは怪訝な顔をした。

私は続けた。私がやっていることは正しい形に戻すこと。歪んだ体を元に戻すことで、元気な体を取り戻す、つまり、元気をとは気を元に戻すことと

書き、反対に病気は気を病むと書きます。  

 なるほど、という表情の二人に私は続けた。

正しい形に戻すことはあなた方の関係も終わりますが、、、、。

 ふたりはあっと声ををあげた。

 あなた方の関係は、決して正しい形とは言えないので。

 一瞬の沈黙のあと、二人は

そんなことが起きるはずがない、という顔をして、また来週お願いしますと答えた。

 次の週はあけみちゃんだけだった。

 私たち終わりました。妙案サバサバした表情で、実家?引っ越しすると段ボールを並べている。

 二人だけしかその存在すらも知らないはすの携帯の彼女に宛てたメールが、奥さんの携帯に届いていたという。

 淋しいのだろう、いつもの女の子が、遊んで欲しくて邪魔をするというので、しばらく相手をすることにした。あけみちゃんとふたりで手をつなき、女の子がくくる。

 通りゃんせ通りゃんせ

 ここはどこの細道じゃ

 天神さまの細道じゃ

 とょつと通して

 くだしゃんせ

 ごようのないもの

 とおしゃせぬ

 

 この子の

 七つの


 女の子の歌はいつもここで唐突に終る。もう一度はじめても、やっぱりそこで突然歌わなくなる。

 永遠に七つを祝う日は来ないことを女の子は知っているから。

 また誰か引っ越してくるさ。

 女の子はうなずいて、次の瞬間、もうずっと向こうの川の上を歩いていた。

 私も思わず唄っていた。

この子の七つの

                      合掌


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