第37話 恋のライバル? (7)

(本文)


 だから二人は初めて、その得体の知れない者の姿を目にした時には、流石に呆然とはしたようだよ。

 でもね、少しばかり時間が経つと、小津の方は我に返り口を開いた。


「なっ、なんだ。あっ、あの化け物は……って、ああ、あれよりも、俺の方が化け物か……あっ、ははは……(笑) ね? フレイヤ……?」


 小津はね、その者を見て初めは化け物だと罵ったのだ。

 でもその者を良く目を見開いて見てみるとさぁ、小津自身の方が余程化け物じみている事に気が付いた。

 だから自分自身の頭をかきながらだけど、とにかく笑って誤魔化したみたいだよ。


 だって恥ずかしくて、恥ずかしくて、仕方がないから……。


 まあ、その後は、横にいる妻のフレイヤに声を掛けてみた──こちらに猪突猛進をしてくる物より、小津自身の方が容姿が悪いだろう? と、妻に問うために。


 でもね、笑いながら声を掛ける小津の呼び声に、妻のフレイヤは全く持って反応をしないみたい。


 だから小津自身は不思議に思い。無言の妻の顔をよく確認をしてみた。


 するとね、妻のフレイヤは、顔色を青ざめながら呆然としている事に小津は気が付いたみたい。


(……ん? どうしんだろう、フレイヤは? 顔色も悪いし、先程まではこんな様子でもなかったのに……。あっ、そう言えば? アイツの姿が見えてから、様子がおかしい気がする? もしかしてフレイヤは、アイツの事を知っているのかもしれない? だから尋ねてみるか?)

 小津自身そう考えると直ぐに行動に移したよ。


「フレイヤ~? あいつの事を知っているのか?」

「…………」

「おっ、おい。聞いているのか、フレイヤ?」

「…………」

「マジで、しっかりしてくれよ。本当に大丈夫か、フレイヤ? おぉ~い、フレイヤ~、お前はあいつの事を知っているのか?」


「……オッタル」


 小津、妻のフレイヤのその言葉を聞き──オッタルとは何? 誰? と、思ったみたいなのだ。

 でもとうとう情が入り、惚れてしまった今か元なのか分からない妻の、目線の先に──鼻息立てながら猪突猛進して。こちらに向かって走ってくる、巨大なイノシシに目をやりながら。

 まさかあれが「オッタル」ではないよね? と、不思議そうに独り言を呟いた。



 ◇◇◇◇◇







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