第31話
「予習がいい?復習がいい?」
カウンセリングが終わり、そのあと本日分の食料の買い出しを終えて、家に戻ると、わたしを待ち構えていたサリーが唐突にそう言った。
「あら居たの?あれから昼間はいなくなってたのに。予習復習ってなんの話よ。宿題?予習も復習もやったことのないわたしに、言っても無駄なことはわかってるくせに」
サリー(純也)は、タイムマシンで、わたしの保育園児の頃に戻った日以来、他の5人と同じように、朝方現れては学校や職場などに向かい、夕方戻り夜には消えるようになっていた。
純也はサリーではなく、そして高校生の頃のわたしでもないので、停学になったから昼間は
1週間、昼間はいなかったのに、カウンセリングを受けた日の今日、純也は家に居る。何か嫌な予感がした。
あれから1週間、6人は夜にはいなくなり、また次の朝には現れて、朝ごはんを食べて、学校や職場や家事のために出て行くということを繰り返していた。
ただ、土曜日と日曜日だけは少し違う。土曜日も午前中は授業があるので、朝のバタバタ感は変わらないのだけれど、お昼前には桃子と眞帆とサリーのフリをした純也が戻ってくるのだ。アリサは夕方まで保育園にいるのかもしれない。土曜日、昼間戻って来るとは思わなかったわたしは、大急ぎでお昼ごはんの用意をしなければならなかった。
察しのいい美佐子も、お昼には現れてくれ、お昼ごはんの準備を手伝ってくれた。
「あんたはほんとに気が利かないね」と母親から何百回、何千回と亡くなる日の朝まで言われ続けてきたわたしなのに、美佐子は気が利く。美佐子は別人格ではなく、過去のわたしなのに、何故なんだろうと思った。
成美は、土日が休みではないので、朝は毎日同じような行動だったけれど、夜は、戻って来る時間がまちまちだった。
この1週間で、いろんなことがわかったのだ。サリーが純也というわたしの中の多重人格者のひとりだったということ以外に、現在に現れる姿を見て、分かることもあった。
アリサは、わたしが5歳の頃の、あの保育園に通っていた頃のわたしだというのは、最初に感じたことと違わないと思う。
桃子は、小学生だと最初に言った。だけど小学生の何年生なのかということは言わなかった。だけど毎日桃子を見ていると、小学1年生くらいだったり、ある日の朝は、どう見ても小学6年生くらいの頃のわたしだと思われる姿で現れる。身長が違うからだ。
眞帆にしても桃子と同じだ。中学1年生〜3年生のわたしが、代わる代わる現れている。中学1年生のときの姿は初々しく、中学3年生のときの姿はふてぶてしいので分かりやすい。
サリーは純也なので、高校生のわたしが現れることはない。サリーを見てて変わったことと言えば、日に日に男らしく純也らしくなっていっているということだ。わたしにバレたので、女の子のフリをする必要も、高校生のフリをする必要もないというわけだ。だけどたまに美佐子から「もう少し女の子らしくしなさい」言われるので、少しは気をつけているようだ。
桃子も眞帆も、戻ってから宿題でもしてくれれば、確実に今日は何年生なのかということが分かるのだけど、ふたりとも宿題をやるつもりはないみたいだ。しかも学校へ行くといって朝消えるのに、ランドセルもカバンも持たない。まぁ、過去のわたしが宿題をしたことがないのだから当たり前のことなのだけれど。
わたしは小学校の5年生くらいから、机の中に教科書を入れたまま帰るという、悪知恵を思いつき、高校を卒業するまで、それを続けていた。
だけど何故、高校生のときのわたしは現れないのだろうか。純也が連れて来なかったということなのだけれど、会いたかったような気もする。だけど、よく考えてみると、現れたらサリーより厄介な人物だと思うので、会わなくて正解だったような気もする。
成美は、職を転々としていた頃のわたしなので、毎日、違う職場に行っているのだろう。ジャスコで働いていたわたしや、近所のスーパーで働いていたときや、有坂電器を手伝っていたとき、いろんなわたしの姿で現れている。なので、戻って来る時間が違うのだ。
美佐子に至っては、結婚当初から離婚前のわたしだと思うのだけれど、さして変わったところは見受けられない。
サリーを除く、5人の共通しているところは、服装と髪型だ。それを見て、あっ今日は何歳の頃だと推測できることもある。
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