第18話
とにかく、さっさとお風呂に入ってもらって、さっさと寝てもらわなければならない。
順番は、子供たちを最初に入れて早く寝かせないといけない。だけど、子供たちだけで入らせるわけにはいかない。
「みんなで手分けして、子供たちをお風呂に入れてもらいたいんだけど」
「俺は最後にシャワーだけでいいよ」
言われなくても、最初からサリーに頼むつもりなどさらさらない。
「じゃあ、わたしと成美さんで手分けしてアリサちゃんと桃子ちゃんを入れる。眞帆ちゃんも拭いたりするの手伝ってね」
美佐子と成美が子供たちを連れてバスルームへと行ってくれたので助かった。わたしに子供の世話は無理だ。
「じゃあ、下着とか寝巻きがわりのTシャツとか置いておくね。バスタオルなんかは棚にあるから、適当に使って」
明日の洗濯が大変だ。一度では済ませられないだろう。今から気が重い。
みんながお風呂に入ってる間に、わたしは食器の洗い物をすることにした。サリーが使い物にならないので、ひとりでやらなくてはならないが、子供をお風呂に入れるよりはマシだ。
バスルームから、意外な程に子供たちと美佐子たちの笑い声が聞こえてきた。
その声を聞いていると、子供の頃の楽しかった思い出が蘇り、わたしは知らぬ間に涙を流していた。
泣いているところを、サリーに見られるのではないかと思ったが、サリーはソファーで横になり、テレビに夢中になっていた。
昔のことを思い出さないようにするために、わたしは洗い物に集中した。
7人分のカレーやサラダの皿や、カップやスプーン、鍋などを洗い終え、いつも清潔を保っている白い布巾で、食器を拭いていて、何か違和感を覚えた。
「あれっ?」
違和感の正体はすぐにわかった。バスルームの方でしていた笑い声がしなくなっていたのだ。
「ねぇ、なんかおかしくない?」
わたしはサリーに声をかけた。
「あ?この番組か?あんま面白くねぇけど?ドリフやひょうきん族には負けるよな〜」
「テレビのことじゃなくて、バスルームよ。みんなの声がしなくなったのよ!」
「ん?おとなしく湯に浸かってるんじゃねぇの?はぁ〜ビバノンとか言ってさ〜。ババンババンバンバンって」
サリーが真面目に聞いてくれないので、仕方なくわたしはひとりでバスルームへ行った。脱衣所には誰もいない。カチャッとバスルームのドアを開け、中を覗くもひとりもいなかった。
母の部屋で着替えているのだろうか、などと思ったが、バスタオルもTシャツも下着も、脱衣所に置いたままになっていた。
母の部屋にも行ってみたが、5人の姿はどこにもなかった。
(5人が消えた……)
何故5人は消えたのだろうか。バスルームは当然、専有部分なのだから、通路やベランダとは違う。それに、洋服を脱いでバスルームに入ったはずなのに、脱いだ洋服は洗濯用のカゴの中にも、洗濯機の中にもなかった。どういうことなのだろう。
「ちょっと!5人がいないのよ!消えちゃったの!」
わたしは、リビングへ戻りサリーにそう訴えた。
「へ?消えた?なんで?」
それがわかれば苦労はしない。
「わたしの方が聞きたいわよ。サリーちゃん、ちょっとバスルームの中に入ってみてよ。消えるかどうか」
「さては俺まで消そうとしてるな」
そんな計算までできるはずがない。いきなり消えたことでパニックになっているのだから。
「嫌なら別にいいわよ。でも5人はどこにもいないのよ」
「わぁ〜ったよ。行ってみりゃいいんだろ」
そう言うとサリーは立ち上がり、バスルームへと向かった。
「この中に入ればいいんだな。うえっ、床濡れてるじゃん。優子ママ、スリッパは?」
バスルーム用のスリッパを床に置くと、サリーはバスルームに入っていった。サリーも消えてしまうのだろうか。消えて欲しいと思っていたけれど、こんなに早くみんなが消えてしまうとは思わなかったので、なんとなく寂しい気持ちになった。
カチャッ
「俺、消えてる?」
1分くらいでサリーがドアを開けて戻ってきた。
「消えてない」
いったい何がどうなっているのだろう。
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