個人売買の仲介
オートバイの個人売買は少し怖い。これはネットオークションにも言えるが安いからと飛びつけばとんでもないポンコツが来たり、丁寧に整備して納車したのに難癖付けられて返品に応じたら散々乗られてボロボロになって返ってきたり。バイク修理を趣味とする中島は過去に何度か嫌な目に会っており、多少仲介料を払ってでもまともな客に売りたいとウチへ持ってくることもある。
「なぁ中島、ジャイロの買い手に心当たりが有るんやが」
「お? 見た目麗しい三十路当たりの独身女性け?」
部品を買いに来てくれるのは良いがこいつに秋月さんを紹介してよいものかと悩む。なにしろ報酬にリツコさんの脱ぎたてパンストを欲しがったり、初対面の女性へナチュラルに卑猥なことを言ったりする変態だからだ。
「女性や、独身か彼氏無しかは知らんが見た目は麗しい」
「そうか、それやったら細かいところまで手入れしとかんとアカンな」
変態と天才は紙一重、中島はミニバイクの修理に関しては良い腕をしている。本人曰く自動車ディーラー勤務時に技術を身に着けたは良いもののスケベな先輩から悪影響も受けたらしい。元々変態になる素地が在ったと思われるが「俺らの頃はディーラーの整備士なんてゴミ屑扱いやったからな」と言っていたので過酷な状況が性格を歪ませたのかもしれない。
「一応やけど希望価格を聞いとくわ、なんぼや?」
中島は少し考えて「十万円くらいで売れたら損はせんなぁ」と答えた。今まで取り寄せた部品代を考えると損こそしていないが儲けはそれほど無い。手間賃を考えると商売として成り立たないがささやかな臨時収入と言ったところか。
「十万円やと中級店で二〇〇分か高級店で一〇〇分か、大島ちゃんどっちが良い?」
「また風俗か、エエ歳なんやからそろそろ身を固めろや」
不思議なことに中島はエッチなお店で出入り禁止にならないらしい。鴨扱いされているからかお行儀が良い客かは知らない。
「大島ちゃん、俺はこう見えてもモテるんやで」」
絶対嘘だ。
「俺が誰か一人の物になったら大変や、琵琶湖が女の子の涙で溢れて滋賀県が水没してしまうで」
ちなみに琵琶湖には百を超える川が流れ込んでいる。瀬田の洗堰を三日間止めれば溢れるとか。
「(瀬田)洗堰の管轄は京都や、それはともかく向こうに連絡しとく」
残念ながら滋賀県には瀬田の洗堰を調整する権利が無い、瀬田の洗堰は京都が管轄している。我が滋賀県はどこまでも京都や大阪に虐げられている。そんな滋賀県の中でも「風で止まる湖西線」とか「陸の孤島」と馬鹿にされるのが高嶋市だ。
「その代わり、絶対にオ〇コとか言うな」
中島は少し不満気に「わしみたいな紳士がオ〇コとか口に出すわけないやんけ、精〇じゃあるまいし」と言った。
恐ろしく不安である。
◆ ◆ ◆
一晩悩みに悩んだ末、俺は秋月さんと中島を合わせることにした。中島は女性に対しては変態極まりない危険な男だが、オートバイの修理に関しては真面目で誠実な……いや、若干やり過ぎなところはあるが一応はキッチリ整備をする奴だ。
「リツコさん、俺の判断は正しいんかな?」
「レイちゃん、ママの魚肉ソーセージを取らないでっ」
帰ってすぐにモコモコパジャマに着替えてコタツで熱燗を煽るママ猫は酒の肴を奪おうとする子猫と格闘中だ。
「レイ、ちーちくをあげるからママから離れなさい」
「やった! ちーちく!」
レイをチーズ入りちくわで誘いつつリツコさんのお皿にも同じものを二つ。リツコさんにも同じものを渡さないと大層不機嫌になるから要注意。
「で? 本当にその変態をお客さんに会わせるの?」
「うん、ジャイロキャノピーは出物が少ないし有っても値段が高い」
ジャイロキャノピーは特殊な車両だからか専用部品が多く部品の使いまわしでコストダウンが出来ない。当然だが新車販売価格も高いから中古相場はスーパーカブと同じっく高値安定中、働くスクーターだから中古のタマ数はそれなりに有るものの需要があるせいで程度のわりに強気なプライスタグが付けられている。
「向こうさんに変な事を言いそうで怖いんや」
少し顔をしかめて「どんな事?」と聞くリツコさんの耳に顔を寄せて伝えると彼女は「もう一度言って」と言った。もう一度言うとリツコさんは「う~ん、それは仕方がないわね」と納得した。
「いいんじゃない? オートバイさえ売れれば変態さんにお金が入るんでしょ?」
三輪バイクが売れれば中島は臨時収入を得て秋月さんは移動の手段を得る。中島は収入でスケベなお店に行くし、欲望さえ吐き出せば性犯罪の抑制につながるだろう。
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