中国のお猿(社外製品に詳しい男)
基本的に
「ふん、クズどもが作った腐れアルミフレームか。大島ちゃん、気がふれたか?」
「気まぐれや気まぐれ、弄ってたら欲しがるお客さんが来たから仕方なしや」
社外製品で詳しいと言えば『悪魔のチューナー』である中島だが、中島は以前の問題発言が原因でリツコさんから有害鳥獣指定かつ青少年の健全育成に対する有害指定されている。とんでもないド変態認定されているからレイに近づけるなんてもってのほかだ。
「こんなもんなぁ、ジャンクの腐れエンジンとセットでネットオークションに出して金にすりゃエエんや。アルミのくせに重いし、下手に組むとヒビが入るぞ」
「中島、ずいぶん詳しいな」
クソ呼ばわりする割に詳しい。どうして知っているのかと聞くと「四年ほど前に痛い目にあったからや」と白状しやがった。
「でもな、このフレームはどこの奴やったっけ?」
「えっとな……」
メーカー名を伝えると中島は「マシになってるぞ」と答えた。
「俺が買った時はアルミ材に直接ネジ山が切ってあったり、削り出しやなくてペラッペラのアルミ板やったぞ。クレーム対応で設計変更されたかな?」
製品が設計変更されて改良されるのは悪い事ではない。ただ、買った直後に設計変更されて改良されたとなればユーザーは良い気がしないだろう。ある程度の改良ならまだしも、極端に変わってしまうのはメーカーが未完成な状態で製品化したからだろう。開発力と良心が欠如しているとしか思えない。
「大昔のホンダみたいなことをしてるんかな?」
「俺がメカやってた頃はそうでもなかったぞ」
大昔の本田技研は「設変のホンダ」と呼ばれるほど時期によって部品がコロコロ変わったりする整備士泣かせのメーカーだったらしい。雑誌に載ってたけど、軽トラックのT三六〇なんて何種類マフラーがある事やら。中島はそうでも無い様だが、中島が現役の整備士だった頃のベテランたちは苦労したらしい。
「変更するきっかけはクレームやろ、大島ちゃんみたいに修正してもらう当てがあるならまだしも、俺みたいにうるさいプライベーターは返品するかレビューでボロクソに書くからな。まだ改善するだけマシか、どこかの連中みたいに『今都ですげヴぉっ!』って言わんもんな」
中島も今都町住民に対して良い感情を持っていない。昔は近づいてきた今都町住民に問答無用でジャイアント馬場のごとくフライングキックをお見舞いしていたが、最近は全く相手にしなくなった。この男は俺よりも社外部品で痛い目に遭っている。だから今回の助っ人を依頼したわけだ。
「基本的に注意して組めば問題は無いと思う。ただし、信頼性はモンキー純正の足元に及ばん。まともな部品が取り付け出来ん上にまともな部品を傷める恐れもある。貴重な新品純正部品を使うのはやめておいた方が良いと思う。あくまでモンキーやゴリラを組み飽きた者の遊びってところやな」
痛い目に遭っているだけあって中島の言葉には重みがある。この男は普段下ネタや適当な事しか言わない愚か者だが、ミニバイク、特に整備に関して真摯に取り組む男だと思う。
「なるほど、余った部品を使って遊ぶ感覚ってところか?」
「そうよ、所詮メイドインジャパンには勝てんって事よ」
ホンダモンキーのコピー商品はチョットした部品から車体丸ごとまで売られている。車体丸ごとの物は『キットバイク』と呼ばれている。
「キットバイクはな、所々で微妙に変えてある訳や。向こう側に言わせれば『ここが違うから別物だコピーではない』ってところや。日本人も大昔は海外製品のコピーからモノ作りを始めて今に至るんやけど、日本人は構造を徹底的に研究してそこから改良するわけや。構造を理解せず粗悪な材料で模造品を作るあちらさんとはそこが違うわな」
中島が言うには大昔の鉄道車両がそうだったらしい。急こう配区間で使われた蒸気機関車や電気機関車の何種類かが海外製品のコピーもしくは改良品だったのだとか。
「そもそもコピー部品なんぞ夜店の当てものや。ハズレで当然、当たりは奇跡。下手をすると最初から当たりが入ってない可能性もある。今都の人間と同じやな、特に今都の公務員なんぞ外れと不良品ばっかりや」
中島の言う通り今都町の住民はろくでもない連中ばかりだ。だが、六城君のように普通の人間も居る。全部が全部ダメではないと思いたい。現に俺が今もカブの四速化使っている海外製トランスミッションは問題無く使えているではないか。
「でも、俺は当たりを見つけたい」
中島は「今回の手間賃は高いぞ」と答えた。
◆ ◆ ◆
春と言えばビールが美味しい季節! 一年中ビールを呑んでる気がしないではないけどビールが美味しい季節っ! 雪が解ければ何になるかと問われれば『熱燗よりビールが美味しい時期になる』と答えるのが私なのだっ!
「クゥ~ッ! このために生きてるよね~っ!」
今日も元気だビールが美味い。そして夫が作る晩御飯も美味いと来たもんだ。目の前に出てきたのは皿一杯の大きな極厚のお好み焼き! ビールが合わないはずがない。しかも今日のビールは金色のプレミアムな奴だ。
「ほい、豚玉そば餅入り」
「ありがと、レイちゃんも食べてみる?」
「あ~ぷん」
ア~ンと開けた娘の口にフーフーして冷ましたお好み焼きを入れると両手両足をバタバタさせて大喜び。一歳三か月少々なのに食いしん坊なのは私たちに似たに違いない。
「今日は中島が来てな、『脱ぎたてのパンストの件は冗談や、奥さんに言うといてくれ』やってさ。気分を害したお詫びにってビールをくれたで」
「もしかして、コレがそうなの?」
缶に描かれた恵比寿様の前でしかめっ面していてはいけない。これは呑むと何とも嬉しい気分になるプレミアムなビールなのだっ!
「ま、ちょっと変な奴やけど許してやってな。中島は社外部品の知識が俺より上やから―――」
恵比寿様に免じて許してあげようかな?
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