第439話 音叉のヤマハ・共鳴

 友人の店や高村ボデー、電機関係の店からミズホオートにハートボデー。ミントの部品を持って行った店同士の繋がりや各々の取引先、さらにそこから車輪の会以外の店や高嶋市市外のショップも巻き込んでミントは部品単位でスペシャリストが整備を続けている。ミントについていたかは忘れたけれど、ヤマハのマークは音叉。次から次へとショップの繋がりで修理が進む様子は音叉が共鳴する様子と似ている。


「よう、フレームとフォーク周りは紛体塗装をするからな」

「おっす、エンジン関係は完成したよん♪ マフラーは詰まってたからシゲさんの所へ頼んどいたぞ」

「強化ハーネスとアーシングキットが出来ました。ジェネレーターはエンジンを持って行った店に渡してあります。ついでにウインカーをLED対応に変更しますね」

「メーターの修理完了です。照明はLEDに換えました」


 店の電話だけでなく携帯もジャンジャン鳴り続けるなんて店を受け継いで以来初めてだ。電話だけじゃなくてメールも届く。


「カーボンフェンダーとカーボンカウルはからな」

「ビス類のメッキとアルミ部品のアルマイト加工上がりました」

「シートを張り替えるならゲルザブを入れませんか?」

「純正部品を発注しました。無い物は代替え品を取り寄せます」


 ヤマハミントって皆が熱心に作業する程の名車だったっけ? 対応でてんてこ舞いする俺を「にゃふふふん♪」なんて鼻歌交じりで眺めているのは出産予定日まで数日のリツコさんだ。『にゃふふふん♪』とご機嫌な裏には何かが有る。俺はそう睨んでいるのだが確認する間が無い。


「エヘへ……ミントちゃんは元通り♪」

「元通りどころか高級車になるわっ!」


 何をどうした事かコストダウンでプラスチック製の部品までアルミ削り出しや高品質な樹脂からの削り出しで製作されているらしい。部品を削り出してまで安バイクに手間暇とコストをかけて修理する理由がわからない。


「リツコさん、何かしたやろ?」

「にゃふふん♪」


 絶対に何かしている。


◆        ◆        ◆


「リツコさん、何かしたやろ?」


 中さんが何か気付いたみたいだけど恍けておくことにした。


「にゃふふふん♪」


 ミントちゃんを見て『直す価値が無い』と言った直後に高村のおじ様や瑞穂のお爺ちゃんに連絡したのは私。そもそもあの二人が正月早々にお酒を呑まず我が家へ来るのは有り得ない事なのだ。お腹が張ったと寝ているふりをして中さんの携帯からデータを移して車輪の会メンバーに協力要請してみた。ロックが掛かっていなかったとはいえ勝手に携帯を触ってゴメンね♡


「共鳴よ、共鳴。音叉を叩いたら共鳴して広がってゆく。正にヤマハワールド」

「リツコさんはカワサキ派や無かったっけ? ゼファーが『浮気された~』って泣くで」


 私はカワサキ派ではない……と思う。ゼファーちゃんは好きだけど、カブだって好きだしミントちゃんも好きだ。中さんはもっと好きだ。


「泣くくらいならお話して欲しいけどね、それに私はカワサキ派じゃないわよ?」

「じゃあ何派?」


 こんな時、私はいつもこう答える。


「純情派」

「何はぐれとるねん」


 ナイスつっこみ。そう、夫婦に必要なのはこの阿吽の呼吸なのだ。


「年初めから忙しいなぁ、でも仕事中は組み立てせーへんで」

「うん、お仕事じゃないもんね」


 仕事で整備するオートバイはお金が入ってくるけれど、ミントちゃんは私の物になるからお金は出るばかりだ。だから店を閉めてからプライベートな時間を使って組み立て。利益度外視で作るミントはどんなミントになるのだろう。

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