第402話 閑話・盆休み

 盆はバイクに乗る事はあっても修理や整備はしない事にしている。『休むべき時は休んで働くべき時は働く』が先代からの教えであり、我が店のモットーだ。暑いわ混むわで夏休み期間の外出はしない俺だが、必要な物が有っては出掛けない訳に行かない。今日は琵琶湖大橋を渡って高嶋市から遠く離れた草津市にあるショッピングモールへ来た。


「にゃふふふ~ん、お出掛け~♪」

「無理せんようにな」


 リツコさんは大きなお腹でも大丈夫なふんわりした服を、俺は寝間着や普段着る為のTシャツが無いかと店を覗いて回る。妊娠五ヶ月でお腹が目立ち始めて来たのにリツコさんは元気に歩き回る。体調は良い様だ。


「中さん、これどう?」


 汗で流れるのと試着の時に服に付くからと今日のリツコさんはほぼノーメイク。お腹が大きい高校生がちょこまかと歩きまわっているように錯覚する。


「家でお洗濯が出来るからOK、これやったら出産後も着れるやろう」


 タイプⅡノーメイクタイプⅢ薄化粧のリツコさんはふんわりしたラインの服が良く似合う。普段は着ない白のサマードレスと麦わら帽子とかをお買い上げ。昔と違って今の妊婦さんはオシャレな服が多い。昔は如何にも妊婦さんでございみたいな服が多かったのに。これも時代の流れだろうか。


「中さんは何を買ったの?」

「Tシャツや。大きいのを買ったからリツコさんも着れるで」


 普段の俺は3LのTシャツを着ているが、リツコさんのお腹が大きくなっても着れる様に何枚か4Lのも買っておいた。5Lとなると俺が着るにしても大き過ぎるのだが、一応一枚買ってある。一通り買い物をしたら映画でも見ようと思ったが良さ気な物が無い。


「このゲームって中さんはリアルタイム?」

「リアルタイムやけど評判がなぁ……」


 若い頃にやったRPGが映画化されていた。でも評判が良くないので見るのを止めておこう。思い出は美しいままで記憶の引き出しにしまっておきたい。原作まで嫌いになってしまう映画なんて見たくない。


「評判が悪いのに敢えて見んでもよいやろ? 少し早いけどご飯食べに行こう」


 藤樹商店街よりはるかに大きなショッピングモールは買い物をするだけで無くて遊ぶところや食事をする所もある。若者が行くようなファーストフード店も多い。


「何を食べますかねぇ……」

「ベイビーちゃん、何を食べたいかな?」


 リツコさんがお腹をさすりながら話しかけて何やら「ウンウン、そうね~」と言ってこちらを向いた。


「お腹から『お肉を食べたい』って聞こえる」

「お腹の子は関係ないやろ? でも暑いからガッツリいきたいな」


 我が家の近所にも焼肉店はある。でもたまには他所で食べるのも良いだろう。プラプラと歩いていると焼肉屋の看板が見えてきた。


◆        ◆        ◆


 焼肉屋はハズレではなかったが当たりでも無かった。味も値段も可なく不可も無くと言ったところ。サイドメニューがイマイチだったのが痛かった。ミズホオートの会長が『女性と焼肉を食べに行く場合は肉以外のメニューが大事やぞ』と言っていたのを思い出した。リツコさんはお肉大好きっ子だが肉以外も食べたい人なのだ。「せっかくのお外ご飯なのにイマイチだったね~」と、焼肉屋さんを出てすぐに喫茶店に入った。俺はアイスコーヒーコーヒー、リツコさんはプリンパフェを頼んだ。


「何だか不完全燃焼って感じやな」

「肉は悪くなかったけどサイドメニューがイマイチだったね」


 我が家の近所にある焼肉屋さんは珍しい肉は無いのだがサイドメニューが豊富だ。スープやご飯ものが何種類かあるし、大将の気分次第で出て来る実験的なメニューなど面白いものが多い。それに慣れると今日みたいな当たりはずれが少ない売れ筋メニューばかりの店は寂しい。普段ならお腹がパンパンまで食べるリツコさんが腹八分で済ませるなんて珍しい。


 喫茶店を出た後は本屋を覗いたりベビー用品の店を覗いたりしたがめぼしいものは無かった。遠くまで来たのに面白味に欠ける一日になってしまった。


(収穫はクルマの欠点が解った事くらいか)


 帰り道ですやすや眠るリツコさんだったが湖西道路の合流車線で流れに乗ろうとアクセル全開にしたら「うにゃ?」と目を覚ました(でもすぐ寝た)。やはり十何年落ちの軽貨物では遠出がキツイ。盆が明けたらA・Tオートに相談しよう。


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