第354話 平成最期の日
今日は平成最期の日。今年のゴールデンウイークは十連休とあって世間はレジャーに観光にと大騒ぎ。だが、我が家では妻の体調が今一つなのでどこにも出かけず静かなものだ。
「リツコさん」
「なぁに?」
今日もリツコさんは眠そうだ。体も怠いらしい。緊急外来で見てもらおうと言ったのだが「そう言うのは本当に困っている人が行くものだから駄目」と言われてしまった。
「コタツを片付けようかと思うんやけど、嫌?」
「にゃう~、片付けちゃうの?」
去年の今頃、コタツを片付けた時を思い出した。コタツを片付けたら駄々をこねて、俺の悪戯で怒ったリツコさんがハンガーストライキに入って……あれよあれよでまさかの展開だった。だから今年はキチンと片付けると宣言をしてから片付けようと思う。
「調子が悪いみたいやけど、寒い?」
「寒くは無いけど……よいしょっと」
体が怠いらしく、動きが緩い。のそのそと近付いてきて胡坐をかいてる俺のお腹の前にストンと座った。お父さんに甘える子どもみたいだ。
「抱っこ」
「ん、抱っこな、よしよし」
抱いた感じでは熱は無いと思う。ただ、少し痩せた様だ。それが気になる。
「リツコさん、眠いと怠い以外に何か無い?」
聞いた途端にリツコさんは体をモゾモゾ動かし始めた。
「お通じが……その……ゴニョゴニョ……」
「お通じか……」
おかしい。繊維質はキチンと取っているし、生活リズムだって崩れていないはずだ。水分補給もしている。何が原因なのだろう。
「お酒も呑まんし、どうしたんや?」
「お酒を呑みたくないの……お酒が美味しくないの……」
大酒呑みのリツコさんなのにお酒を呑みたくないとは何が起こったのだろう。もしかすると病気かもしれない。病気で体が怠くて痩せると言えば……俺の頭の中に『白血病』と『ガン』が思い浮かんだ。白血病は元気な若い女性でもなる事がある。大臣だか何だかがガッカリしたと言って問題になったが、リツコさんが白血病になったりしたらガッカリどころではない。
「リツコさん、ごめんな、ちょっと触るで」
「やぁん……まだ朝よ……あぁ……」
服の裾から手を入れてリツコさんの胸を揉む。手に吸い付くような張りのある乳房は最高の触り心地だ。だが、今はそんな事はどうでも良い。
「そう言えば最近してないね、したいの? でもそんな気分じゃないの」
「静かに……指先に集中してるから……」
スーパーカブ系のバルブクリアランスは0.05だったか0.07ミリの辺りのはずだ。俺の手は決して繊細ではないがそれ位なら近い値は出せる。もしもしこりが有れば見逃さない。
「しこりは無いな、多分大丈夫」
「乳がんの触診? それは私もしてるの」
リツコさんも体の怠さと痩せたのを気にしていたのか自分で胸を揉んでいたと教えてくれた。心なしか張っている気がするけれど、まぁ体調にもよるのだろう。
「ねぇ中さん……久しぶりにしたくなっちゃった……いいかな?」
リツコさんは立ち上がり、トイレに行った。刺激を与えたら便意が来たらしい。
◆ ◆ ◆
今日はコタツを片付けたけれど布団までは干さない事にした。トイレを済ませた後もリツコさんは眠そうだし、ここで布団を干してしてしまうと寝ていられない。
「リツコさん、お布団は敷いてあるから寝てても良いんやで」
「一緒に居る~」
横になってテレビを見ているリツコさんは本当に怠そうだ。食欲はあるけれどいつもよりアッサリした物を食べたがる。朝ご飯はパンとスクランブルエッグ、そしてサラダと牛乳。お昼ご飯はパスタでも作ろうと思っていたのだが、リツコさんのリクエストでうどんにした。
「ごめんね、夜の方もご無沙汰だし、すぐ寝ちゃって」
「ええんやで、具合の悪い時はゆっくり休み」
リツコさんはうどんを食べた後、居間でクッションを抱きしめながら寝てしまった。いつも元気なリツコさんが弱々しい。これは異常事態だ。連休が明けたら意地でも病院に連れて行って診てもらう。すうすうと寝息を立てるリツコさんを見て決心するのだった。
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