第324話 類は友を呼ぶ?

 最近触っているのはカブのエンジンだけどカブとは全く違うフレームのCD九〇。類は友を呼ぶのだろうか、CD九〇を弄っていたらまたカブ系エンジンのバイクが来た。今度もカブ系エンジンだけどまったく形が違う。例によってバイク回収業者が持って来たんだが、今回は最も変り種と言えるだろう。スーパーカブと言えばだいたい頭に浮かぶのは丸いライトに丸いウインカー、前後の大き目なタイヤが思い浮かぶだろう。俺だけかもしれないが、アライのクラシックを被った地味な女の子が思い浮かぶ。まぁ、それに関してどうでも良い話だ。


「ミッションだけでも価値が有ると思うけど、どうよ?」

「不動車でカウルが割れてる。で、ナンボや?」


 『ミッションだけ』と言った時点で価値が分かっているらしい。そう、この一見洒落たスクーターは横型エンジンを積んだカブ一族なのだ。


「三万円」

「一ケタ違うでしょうが」


 回収業者に奴め、クイッと眼鏡を人差し指で上げてニヤリとしやがった。どう言う仕組みでか分からんが、メガネのレンズが上手いこと光を反射して奴の目が見えない。〇ゲ〇ド〇か。


「クックック……これはカブだが輸出では人気が無い。だが一部で人気のカブだ」


 憎たらしいほどに余裕の表情。こちらが喉から手どころか肛門まで内蔵全部が出るほど欲しいのを御見通しだ。前回ジャイロを安くで買い叩いた仕返しに違い無い。こんな復讐のやり方をするなんて、何て恐ろしい子っ!


「三万円でいい……」

「へっへ~ん、毎度ありぃ」


 大出費だ。もう今月一杯は節約メニューにしようと心に誓うほどに大出費だ。なぜそこまで不動車を欲しかったかと言えば、これがスーパーカブ系列のエンジンを積んだ変わり種だからだったりする。部品だけなら何回か扱った事はあるが、丸車は初めてだ。


「うう……足元見やがって……」


 ホクホク顔でトラックを走らせる回収業者を見ながら俺は悪態をつくのだった。


       ◆       ◆       ◆


 バイク回収業者を見送ってからはCD九〇のメンテナンスを続ける。幸いな事に走行距離は少ないのでベアリングやその他諸々は交換不要。タイヤを外したついでにブレーキドラムの錆を落としたり、細かな所をチョコチョコと掃除しておく。今日は可燃物を扱わないのでストーブに牛筋を入れた鍋を乗せて煮込みながら作業を続ける。


(触りたい、でも分解すると場所が無くなる)


 初めて入庫するバイクを見ると触りたくてたまらなくなる。でも今回入庫のバイクはカブ系の中でもメンテナンス性が悪いと言われるジョルカブだ。スクーターのジョルノをベースにカブのエンジンを積んだスクーターとカブのハーフ。異色の四miniだ。前から欲しかったが予算が折り合わなかったり程度が悪かったりで入手までは至らなかった。それがやっと手元に来たのだ。弄りたくて弄りたくて仕方がない。


(でも、予備知識なしで分解するとカウルを割りそうやしなぁ)


 ジョルカブはスクーターなのでカウルが有る。これがまた厄介で、元々が安普請なスクーターで経年劣化している物だから割れやすい。少しこじっただけで『ピシッ』ッと悪魔の叫び声が聞こえる。


(もう少し調べてから……うん、触るのはもう少し調べてから……)


 悶々とした気持ちと戦いながら本日も作業を続ける。


(触りたい! めっちゃ触りたい!)


 そんな気持ちで仕事をしても作業は進まず。この日出来上がったのは牛筋の煮込みだけだった。


         ◆        ◆        ◆


 ヴロロロロ……


「ただいま~」

「おかえり」 


 夕飯の支度を終えた頃、リツコさんが帰って来た。帰って早々、鼻をひくつかせて鍋を開けてニヤリとしている。


「にゃふふふふ~ん、牛筋煮っ込み~」

「これ、お行儀が悪い。手を洗って部屋着に着替える」


「はぁい。牛筋煮込みで熱燗~♪」

「チンしとくで~」


 牛筋煮込みで喜ぶとは、やはりリツコさんは呑兵衛さんだ。たくさん作っておいたからご飯のおかずにしても善し、酒の肴にしても善し。悶々とした気持ちは料理で解消できたと思う。


「中さん、何か有ったの?」

「ん? 何で?」


「何だか考えてるみたいだから」


 リツコさんに隠し事は出来ない様だ。正直に話して楽になってしまおう。


「CDを直してるのに、新しいバイクが入って来て『弄りたい衝動』が出てな」

「またバイク? 何が入って来たの?」


 「ジョルカブが入って来たんやで」って返事したらリツコさんは目を丸くして驚いていた。


「ジョルカブ! ジョルカブ入ってるのっ! 見せてっ!」


 もう大興奮。猫まっしぐらとでも言えばいいのだろうか。


「どうしたんや、大興奮やんか」

「欲しかったの……でも、お母さんが『お婆ちゃんに貰ったのが有るでしょ?』って買ってもらえなかったの。お父さんは死んじゃってたし、お金に余裕が無かったから……」


 急にしんみりしてしまった。辛い事を思い出させてしまったらしい。


「ごめんなさい、お仕事で仕入れたんだから駄目だよね。ゼファーちゃんをリフレッシュして、通勤にリトルちゃん。お買い物にジャイロちゃんまで使ってるのに欲張りだね」


 困ったなぁ、しゅーんとしたリツコさんなんか見たくないけど、商売やから捌かんとアカンし、多分売り出したら売れるもんなぁ。


「そうやな、俺も何台か持ってるけど台数が増えると面倒を見れんから。ゴメンな」

「うん」


 本当ならどれもこれも手元に置いておきたいバイクばかり。だけど商売だから売らなければ食って行けない。何とかしてあげたいところなんやけどなぁ。

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