第323話 君は出汁殻じゃない②エンジン
ホンダベンリィCD九〇のHA〇三エンジンは
「さぁてと、このフレームで
九〇㏄のパワーに耐える車体、二人乗り対応のタンデムステップ付きとなれば二種登録にして堂々と二人乗りしてもらいたいものだ。
「青春の二人乗り、彼氏の後に可愛い彼女……そんな時代じゃないか」
何故だか分からないが、葛城さんの後に乗る浅井さんの姿が浮かんだ。もう男が女性をリードする時代ではないのかもしれない。昨今の女性は強い。特にうちのリツコさんなんてお酒にめっぽう強い。
「モンキーと違ってスペースに余裕も有ることやし、九〇にしとこう」
ホンダモンキーは小さな車体の限られたスペースにエンジンが収められている。それ故にシリンダー長があるロングシリンダーのエンジンを積むのに工夫が必要だ。長いと言ってもほんの七ミリくらいだ。それでもフロントフェンダーに当たる。おえはシリンダーヘッドカバーのフィンを削ったりして積んでいるが、社外の長いフレームに交換したり、フレームの延長加工をする猛者もいるらしい。でもカブやCD・CLのフレームなら全く問題が無い。
「スプロケで少し最高速を落としとこう」
高校生が調子に乗ってビュンビュンとスピードを出さない様にだけはしておこう。玉垣のおっちゃんのカブは登坂力強化にローギヤへ振ったけんど、今回は
今回の車体は錆腐れも無くて非常に程度が良い。ざっと洗車をして、各部に注油。あとは細かなフレームの傷や錆にサンドペーパーをかけてチョイチョイと色を塗って、ある程度形になった。エンジンを積むともうすぐ完成に思える。
「キャブもモンキーと同じ様なもんを付けとけばいいか」
車体が大きいけれどやる事は一緒。今回は遠心クラッチなのでクラッチレバーとワイヤーは取り外しておく。スポーティーな車体を楽ちん操作の遠心クラッチで走らせるなんて面白いではないかと思うのだが、どうだろう。俺はこんな悪戯みたいな事をするのが大好きだ。そして、そんな悪戯をしたバイクは女の子が買う事が多い。スーパーカブの遠心クラッチは開発者の優しさと情熱で出来ていると思う。女性は常に優しさを求め、情熱的に愛されたいのだとリツコさんから聞いた。
「葛城さんも『普段は楽なのが良い』って言ってたな」
プロのライダーが言うならそうなのだろう。男と女の間も肩ひじ張らず、一緒に居て疲れないのが良い。リツコさんの場合はちょっと疲れる夜も有るけど。
「さてと、エンジンは有る物を使うとして、何か一工夫はしたいな」
せっかく面白いバイクを作るのだから何かスパイスを効かせたい。
◆ ◆ ◆
「ね~中さん、ホワイトデーのお返しはコレが良い」
バレンタインデーが終わって数日なのにリツコさんが何かねだって来た。妻がおねだりするとあっては夫として答えなければならない。
「ん~? 軽量フライホイール? 旋盤で表面をさらったな……」
リツコさんが指差したのはスーパーカブの軽量フライホイールだ。軽量と言っても旋盤で表面をさらった物。昔社外品であった物ではない。加工する技術が無いなら買えば良いが、車輪の会の伝手で何処か加工してくれそうな工場が有りそうなものだ。
「レスポンスが良くなるかなぁって思うんだけど、どう?」
「これなぁ、レスポンスよりも回転バランスが良くなるんやで」
ノーマルのフライホイールだって悪くは無いが、表面は少し波打っている。軸からの距離を均一にしてドリル加工でバランスを取れば回転は滑らかになってエンジンの振動は減るはずだ。
「フライホイールの在庫は有るし、表面が錆びた奴を加工に出して見よっか?」
リツコさんに言われて良い事を思いついた。CD九〇に加えるスパイスは軽量化してバランス取りしたフライホイールに決定だ。
翌日、表面が錆びて痘痕になったフライホイール四個を金属加工業者に出した。ネットオークションの開始価格より安い工賃で作業してくれるとの事だった。
「表面が荒れてるのはガッツリ削るから軽く、程度の良いのは表面をさらうだけやから重く仕上がるしな。重さは個々でバラつくで」
「かまわんよ、キレイに回るように頼みます」
利益を考えるとネットオークションもボッタクリではなさそうだ。
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