第306話 スノータイヤ

 年が明け、新学期が始まった途端に寒波がやって来た。雪が降り、道路からは融雪装置からの水が噴水のように飛び出るこの時期は自転車やバイクに乗る者は少ない。雪対策を『自力勝負』として、我々高嶋市南部地域は市になる以前から融雪装置と除雪車を装備している。対して雪が多いはずの高嶋市北部は除雪車や融雪装置が少なく塩カルを主な雪対策としている。これは箱モノ重視の街づくりと『何か有れば自衛隊が除雪する』との考えからだ。そもそも農村地帯の今都・蒔野地域はトラクターを持っている農家が多く、トラクターにアタッチメントを付けて自宅周辺だけ自分で雪を退ける家が多かった。


「でもな、トラクターで雪除けしてた連中は歳をとって動けんようになってるし、最近出来た団地とかは用水路は無い。トラクターどころかスノータイヤも持って無い連中が多いやろ? スコップを使って自分で除雪しようって気も無いやん。それで雪が積もる前に塩カルを蒔きまくるようになった訳や」


「ふ~ん、それで今都を走ると錆だらけになるんですね」

「今都だけやないみたいや、安曇河でも新しい団地の人は自分で雪を除けんな」


 この時期になると学生たちはバイク通学する者が減る。ウチの店でも部活で遅くなるから仕方なくバイク通学する者は居るが、ほとんどの学生は湖西線を使った電車通学に切り替える。理恵は去年雪起こしの中を走って風邪を引いたし、速人は試しに雪道を走ろうとして数百メートルで挫折したらしい。高嶋町から通う今津麗ちゃんは駅まで歩き、同じく高嶋町の山手側に住む住吉今日子ちゃんもバイクで高嶋駅まで行って電車通学を始めた。


「まぁ僕らは仕事ですからバイクで回りますけどね、社長から危ない所はクルマで回る様にて言われてます」


 今日のご来店は億田金融の今津克己さん。マグナ五〇に乗る今津麗ちゃんのお兄さんだ。雪道対策でタイヤにチェーンを巻こうと思っていた様だが高嶋市内は融雪装置の有る所や無い所が混在する。その度にチェーンを脱着するのは面倒だ。かと言って付けっぱなしではチェーンが切れたりして危ない。社長の金一郎は強面だが実際は優しい奴で、「今津くんが安心して走れる様に頼みます」とスノータイヤへの交換を電話してきたのだ。


「まぁ路地とかの狭い所も有るし、クルマでは厳しい所も多いからなぁ」

「軒先まで行けるバイクの方が色々と便利なんです」


 安曇河町を移動すると思うが狭い路地が多い。御用聞きや配達の場合は車だと停める場所が無い事も多い。


「まぁ、安曇河の道は融雪が付いてるからエエとして、真旭以北と朽樹は厳しいな。朽樹は除雪車が出るとして、真旭はどうや?」


 朽樹は村だった頃から除雪が行き届いている。融雪設備を設置すると莫大な費用が掛かるので除雪車を大目に配備したのだ。


「朽樹は住民も自分で除けますから道は普通ですね。まだ走ってませんが高嶋町が走りにくいらしいですね、家の雪を道へ放り投げると聞きました」


 これは住民性と言うか考え方の違いなのだが、高嶋町の道を走っていると雪が投げ込まれて驚く事が有る。元々城下町だったからか、人通りの多い幹線道路へ雪を投げ込んでおけば溶けるといった考えがあるらしい。残念ながら今の高嶋町は病院への通り道でしかないし、自動車は国道一六一バイパスを通るので雪は解けないのだが、住民の考えと言うか風習は変わらない様だ。


「スタッドレスタイヤって言っても油断はアカンで、横方向のグリップは弱い。カーブは気を付けて乗ってな。バンクしたらステ~ンと転ぶで」


 四輪も二輪もホイール付きタイヤを用意しておけばすぐに交換できる。スタッドレスタイヤが有るバイクと言えばカブとジャイロシリーズだ。今年は用意していなかったけれど、来シーズンは買い物用のジャイロXにスノータイヤを準備しておこうと思う。

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