第218話 化粧で変わる
先日の食事会でリツコさんの同僚を紹介された葛城さんは予想通り男性と間違えられたらしい。
「まぁ、その後で我が家へ運ばれてきた葛城さんを見た時はたいそう驚いた物じゃった。ハイエースの荷台から出てきたのは、それはそれは美しい顔をした男…にしか見えないメイクをした葛城さんだったそうな、めでたしめでたし……」
「なんで昔話なん?」
滋賀は琵琶湖から見て何処にあるかで文化が変わる。東と西で違いが在るし、北と南でも違いがある。北は北陸に、南は京都の言葉が少し混ざる気がする。
「また葛城さんが男の人と間違えられたんやって」
「そりゃそうやわぁ……」
今日も店に来た澄香ちゃんが相づちを打つ。特に用事がある訳じゃないが寂しくて来たらしい。まぁウチに来れば話し相手くらいは俺がするし、俺以外にも学生達が来たりするから話し相手には困らない。
「私のアパートの住民なんか8割が女の人やもん。葛城さんが決め手で入居した人ばっかり。あの顔は詐欺やわ……もう女の人でもOKかなって思うもん」
「ふうん……そうか」
ここ最近はご近所の奥様方も薄々葛城さんが女性かもと疑い始めているのだが、やはり間違える女性は多いらしい。とんでもない天然ジゴロだ。神が何かの手違いをしたとしか思えない。理恵・リツコさん・今年の一年生が四人と葛城被害者の会が出来そうな勢いだ。まぁ実害はないのだが。
「おじさんが触ってはるのもスーパーカブやなぁ? ちょっと違うわぁ」
「ん? これか? これもカブやで。セル付きのカスタム」
細かな違いで印象が変わるのはカブも人間も一緒。無精ひげを生やせば無精に見えるし……リツコさんなんて化粧で三姉妹に見えるもんな。
「でもこれもカブ。外装が違うだけで人気が出たり無かったり。人間と一緒や」
◆ ◆ ◆
「リツコさん、今夜……いいかな?」
「いいよ……好きにして♡」
夕ご飯を食べて、お風呂を済ませてからは二人の時間。中さんとの共同作業だ。
「好きにしてって言ったけどね……中さんって何気に人使いが荒くない?」
「あのなぁ、俺が呑む三年分をここ数か月で呑んだのは誰?」
水洗いした青梅のヘソを竹串で取る。
「私なんだけどさぁ、好きにするってこう言う事じゃ無いと思う」
「瓶の底に残った梅まで食べてしもたのは誰?」
「私だ」
「やろ?」
ヘソを取った青梅は水に浸けてアク抜き。私の旦那様になる男はマメだ。この梅を梅酒にするらしい。ホワイトリカーや黒糖焼酎は手配済み。実は焼酎を少しつまみ飲みしたのだけど……バレてないよね?
「それに……焼酎ちょっと呑んだやろ?」
「うん。梅酒にするのがもったいない気がする」
バレてた。
「お化粧は土台が良くて間違えんかったらキレイになるやろ? 梅酒もリツコさんも一緒。しっかりと味わいのある焼酎で作る梅酒は梅でお化粧した焼酎や」
「でも……一年も待てない~」
梅がエキスを出して熟成するまで中さんの基準では最低でも一年。しっかり熟成した琥珀色にするには三年寝かせるんだって。つまり、これを飲めるのは来年以降って事だね。
「これが飲める頃には……リツコさんは名字が変わってるな」
彼は私を落としたつもりかも知れない。そんな彼に一言物申した。
「一度寝ただけで
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