第199話 大島・3輪バイクは勝手が違う
インターネットのオークションで調べてもなかなか程度の良さそうなジャイロX前期型三穴ホイールが無い。三十年前のバイクとあってどれも今付いているのと変わらない錆具合だ。朽ち果てて錆の塊になっているように見える。
「……ホイールの出物が無い。ハブごと交換する方が良いかな?」
「そのハブも違うみたいよ」
高村ボデーで修理を頼んだマフラーは出来上がったのだが、問題は後ろに付いている二本の六インチホイール。新品は生産終了。しかも前期型だからボルト三本留めの特殊なホイールだ。
「う~ん、ハブのスプラインが違うんやなぁ」
「二ストで初期・前期・中期・排ガス規制後。そこから四スト…そんなにあるんだ」
「せめて六本のボルトで付くタイプやったら何とでもなるのに」
「やっぱりハブごと交換だね『急がば回れ』って言うじゃない」
どうやらホイールが付くハブごと交換をした方が良いらしい。強度は上がる、部品供給は安定、ミニカーへ変更するにスペーサーが選び放題と良い事ばかりだ。
「ねぇ、
リツコさん、お願いやから胸をあんまり押しつけんといてくれ。俺だって男なんやから、なんて言うか、こう……柔らかい……とても柔らかい。そっちは柔らかいけれどこっちは固くなってしまう。
「子供や無いんやから、ダダをこねない!めっ!」
「『めっ』って何よ……子ども扱いしないで……はむっ♡」
オバサン扱いすると怒るくせに……うおっ!耳たぶを甘噛みされた!
「リツコさん、それ以上すると痛い目に会うで!」
「うん……中さんなら……イイよ…」
「何が?」
「エッチな事」
いきなり何を言うんや。
「…………」
「初めては痛いって聞いたけど、痛くしないでくれると嬉しいかなぁ……」
色っぽい声で囁かれると理性が飛びそうになる。背中には柔らかな胸の感触、首に絡められた腕……ちょっといい匂いもする。
「……そう言うもんは大事な時まで取っておく!」
結局、この日はハブもホイールも見つからなかった。
◆ ◆ ◆
「へ~三輪バイク? おじさん、こんなのも直すんだ」
「まぁバイクには変わりないさかいな」
今日は葛城さんがご来店。オイル交換だ。
「これ、古そうだけど何年式?」
「ん~っと、車体番号からすると八十五~八十九年式かな?」
原付は車検証が無いから年式が良く分からない。
「年上だぁ♪」
「そうやな」
う~む、ライダーより年上のスーパーカブは多いけれどジャイロもそんな年代のバイクなんやなぁ。スクーターでも綾ちゃんのDioとかも年上やしなぁ。
「葛城さんも三輪バイクに興味が有るんか?」
「興味って言うより仕事柄よく話題に出るかな~って」
ジャイロが登場して三十年余り経つ。それなのに法整備が追い付いていない。ボアアップした場合の登録法や登録区分。ミニカー登録した場合の問題などが今一つ解決していない。
「ミニカー登録するとヘルメット無しでも法的には問題無いんだけど、原付1種の時よりスピードを出すから事故った場合は悲惨なんだ」
制限速度は原付一種が時速三十㎞。ミニカー登録で時速六十㎞。二段階右折から解放されて時速三十㎞縛りからも解放されるミニカー登録は一時期大人気になった。今でもそれなりの需要はあるらしい。実家の近所に在る和菓子屋が道の駅まで品物を運ぶのに使っているのを見た事が在る。
「タイヤを換えただけで同じ車体でヘルメット無し。しかもスピードが出るし、ちょっと事故があった時の事を考えると怖いなぁ」
「安全面からはヘルメット着用にするべきだと思うんですけどね」
まだジャイロはバンク出来る分バイクに近い乗り味だからマシ。
「むき出しでシートベルトも無いしなぁ……はい、オイル交換出来上がり」
「で、このジャイロはどうするの?ミニカーにするの?」
「それは部品が入るか次第や。ハブが三穴なんやなぁ…」
「じゃあネジ三本?タイヤが外れる事故が起きてるから注意してね」
ミニカーはニュースでも話題になっていた。造るなら周りに迷惑をかける事が無い様にしっかりと作っておきたいものだ。
葛城さんが帰った後はジャイロの修理の続き。ブレーキワイヤーは注油で何とかなった。前後のブレーキは中を掃除してシューの表面をヤスリで一削り。幸いライニングの残量は有ったからそのまま使う事にした。
「で、結局リヤホイール周りの問題が解決せん訳か、新品は出るんかな?」
……部品は出るけどなかなかのお値段だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます