第173話 葛城・振られる
パン・ゴールの店員さんが気になって仕方ない晶。思い切って告白してみた。
「私とお付き合いして下さい」
「お断りします」
一刀両断で振られただけならまだ良い。だが、今回は失う物が在った。
「クスン……もう恥ずかしくってパン・ゴールには行けない」
「葛城さんが振られるなんてな……」
葛城のお気に入りは店員だけではない。餡ドーナツやサラダパン、ウエスタンにハムチーズ…パン・ゴールのパンは今や葛城のパワーの源でもあったのだ。ちなみにウエスタンはマカロニサラダの入ったパン。『マカロニウエスタン』から付けられた名前だ。
「まぁココアでも飲み」
「クスン……パン……もう買いに行けない」
葛城がべそをかいてココアを飲んでいると理恵がやってきた。
「あれ?葛城さんどうしたん?」
「そっとしておいてあげてな。失恋や」
「失恋?勿体ない!で、葛城さんを振ったのはどんな人?」
「パン・ゴールの店員さんや。知ってるか?」
「え?葛城さんって男の人が好きな人?」
世の中の殆どの女性の恋愛対象は男性だと思う。中には違う人も居るが、それはそれ。決して恥ずかしがることではないと理恵は思っている。
「理恵ちゃん、私、これでも女の子なんだけど」
「忘れてた。じゃあ、大丈夫と違う?あの人、男の子やで?」
※理恵は忘れていましたが、葛城は女性です。
「え?」
「やっぱり?」
理恵が言うにはパン・ゴールの店員さんは昔から女の子に間違えられていたらしい。
「どこからどう見ても男の人やで?咽喉仏有るやん」
理恵は背が低い。下から見ると咽喉仏が見えるのだ。俺や葛城さんは見下ろす様に見るから首元に目が行かないからだろう。まったく分からなかった。
「で?葛城さんは『自分は女性です』って言ったん?言わんと分からへんで?」
「それって酷くない?」
酷い事を言っているように思われるかもしれないが、理恵は初めて葛城さんと会った時は男性だと勘違いして一目惚れしている。磯部さんも男の人と勘違いして交際を申し込んで玉砕しているし、ご近所の奥様方は今でも男性と思っている。
「紹介してあげよっか?私、よくパンを買いに行くから知ってるよ?」
「ん~別にもういいかな?付き合うならもっと男っぽい人の方が良いな」
どうやら気持ちは冷めてしまったようだ。
「で、理恵は何か用が在って来たんか?」
「ううん。暇やったから寄っただけ。おっちゃん、ココア」
ウチは喫茶店じゃね~よ……。
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