第168話 大島・情報を流す
「兄貴。例の情報、報告書が上がりました」
「ご苦労さん。手間かけたな」
Tataniが店を閉めて雲隠れした。おかげで困った奴がウチへ電話してくる。今日も朝から数回今都から電話がかかってきている。もちろん無視する。
「まぁ礼って程のもんじゃないけど昼飯を食って行きなさい」
「兄貴……儂がカレー好きでも限度がありまっせ」
金一郎の眼の前に有るのは業務用の寸胴鍋。中身は俺の特製カレーだ。
「お前ひとりで食べるんと違う。冷凍もするし、他に食うもんもいる」
「兄貴っ……春が来たんですな……やっと兄貴にも春が……うぅっ……」
鬼の目にも涙と言うが泣かれる様な事はやってない。
「飯を食いに来る知り合いがいるだけや。飯炊きをやってるだけや」
「はぁ……色気の無い話でんな……まぁええわ」
「それにしても、良う調べたもんや。お前の伝手は凄いな」
「銭を辿ると色と欲に繋がるんですわ。詳しくは教えられまへんけど」
◆ ◆ ◆
金一郎が帰った後、報告書に目を通す。どうやらTataniの社長は大阪のとある場所に隠れているらしい。訳ありの者が隠れるのに最高の街だ。
ヴロロロロ……トントントン……プスン……。
「おじさん、用事って何かな?」
「ちょっと良い情報が在ってな」
今日も葛城さんはイケメンだ。見つかるとご近所が寄って来るので奥へ通す。
「これ、葛城さんにあげる。何かに使って」
「何ですかこれ……他谷?……Tatani……あの店の情報を……どうして?」
噂で聞いたが、Tataniに警察が踏み込んだらしい。ところが店はもぬけの殻。所在が分からず大型バイクの不正登録の件でしょっ引く事が出来ないとか。
「おっちゃんが持ってても有効活用出来んからあげる」
「……了解しました」
俺に出来るのはここまで。あとは警察に頑張ってもらう。
「まぁココアでも飲みながら話をしようか。その後どう?」
「どうって……どうもないです」
その後とは葛城さんの恋愛の話だ。このイケメンお嬢さんはパン屋の店員にホの字らしい。
「もしかすると、上手い事行くかもしれんよ」
「向こうは女の子ですよ。女の子同士で……」
ゴニョゴニョ言ってるけれど、何となくパン屋の店員さんは葛城さんとお似合いだと思う。性別なんか気にしなくて良いと思う。
「まぁ『友達になって』って声をかけたら?それなら自然やろう?」
「嫌われたり気まずくなったらどうしよう……あの店のパン美味しいのに」
店員さんが女の子だったら友達になれば善し。男の子なら問題なし。
「笑顔で話しかければ大丈夫。葛城さんは魅力的や(男性として)」
「何か引っかかる言い方ですね」
そんな会話をしていると葛城ファンクラブの御婦人たちが集まって来た。葛城さんを囲んで、暫くお茶会をした後で解散。
その後は工場で作業を続ける。
春に向けての中古車整備もあらかた終り。まだまだ寒い日が続く。2月一杯はバイクで高嶋高校に通う生徒は少数。オイル交換もパンク修理も無く、今は暇な時期だ。
コーヒーを飲みながら街を眺める。まだまだ春は遠い。
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