第151話 椛島さん・カブ50改納車

 試運転と軽い慣らし運転を終えて椛島さんのカブが出来上がった。


 真新しい黄色のナンバーを付けたカブ。今回は二種の表示もバッチリしてある。


「へぇ!そんな値段でここまで出来るとね!」


 シリンダー以外は変更しなくて済んだ分、各部の整備にコストをかけた。おかげでカブは新車とは言えないが程度の良い中古車になった。


「キャブレターもマフラーも換えてないからその分、整備に回したで」

「何だかシャキッとしたね」


 椛島さんはバイクに乗っていたことが有るので詳しい説明は要らなかった。


「基本的に五〇と性能は同じやけど、堂々と時速六〇㎞で走れるからね」

「はい。おじさん、ありがとね」


 実際は六〇㎞まで出すには時間はかかるし、ギヤも三段だから加速も良くないが。


「それと、書類入れにボアアップした証拠があるから、もしもの時は見せてな」


 これは普段ならしない説明だ。今回は元のシリンダーを加工してある。シリンダーの刻印は四十九㏄のままなので不正登録を疑われてしまうからだ。


 一〇〇㎞走った後のオイル交換の話を済ませ、無事に納車完了。


「やれやれ、初めての事だけに時間をかけてしまったな」


 シャキッとしたカブは無事に納車できた。


 今夜は磯部さんは来ない。仕事場の同僚たちとの食事会だそうな。葛城さんは曰くつきのゴリラに怖がって来ない。


 一人の夕食は久しぶり。冷凍してある中華そばと粉末スープを炊いて、ワカメを入れての手抜き料理。


 風呂へ入って洗濯機を回しながら帳簿を付けていると誰か来た。鍵を開ける音がするから磯部さんだ。


「ただいま~」

「どうしたんや?今日は泊まる日と違うで?」


「ラーメン。締めのラーメンを食べたいの~」


 カップ麺でも食えばと思うが冷凍庫から麺を出して作る。今日の磯部さんは結構呑んでるみたいだ。


 ラーメンを食べている間に布団を轢いておく。この前まで空き部屋だったのに磯部さんの荷物が置いてある。


 居間に戻ると磯部さんが大の字になって寝ていた。仕方なく布団へ運んで寝かせた。


 もしかすると彼女は寂しくて来たのかもしれない。下宿をOKした方が良いのだろうか?

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