第114話 セレブリティ―バイカーズTatani
ホンダモンキーの生産終了以降、中古部品や車体は高値安定中。最終生産車がオークションで50万円~70万円と言う原付と思えない高値が付けられる。
それに目を付けた男が高嶋市にも居た。今都のセレブリティ―バイカーズTatani代表、
「海外製の同じバイクの外見を弄れば高値で売れる!」
少しでもバイクを知る物なら騙されないはずだが、金の亡者と化した連中に本物のホンダ製との違いは分からない。
数日後、セレブリティ―バイカーズTataniに海外製のキットバイクが展示された。
『モンキー型バイク ¥400000 2017年製』
このホンダ純正ジェネレーターカバーを付けたキットバイク。ご丁寧な事にタンクには『Honba Monhey』サイドカバーには『乙50』と本物そっくりなステッカーが貼ってある。
ホンダのモンキーに乗りたいのではなく、『よく解らんけど、この形のバイクが高くで転売できる』とモンキーに疎い転売目的で買う連中には飛ぶように売れた。
少しバイクに詳しい者が見れば「2017年製で何でキャブ?」となるが、まさかこの値段で偽物を掴まされるとは思わなかったのだろう。価値が下がらない様に登録することも乗る事も無い連中故にフレームナンバーを確認することなどしない。偽物である事に気が付かない。
『欲に目が眩む』とはこの事だろう。何台も買って丁寧に保管する者まで現れた。未登録新車状態で保管されているのだから故障もせず修理にも入って来ない。新車で買っても10万円で御釣りがくるコピーバイク。ジェネレーターカバーを換えても1台辺りの利益は約25万円。セレブリティ―バイカーズTataniは多額の利益を得た。
「やっぱりバイクは馬鹿が買うんや。あ~儲かる!あ~楽しい!」
セレブリティ―バイカーズTataniの代表、
今夜も飯を食いに行く。自炊なんか貧乏人がする事だ。料理なんぞ下郎に作らせればよい。
(俺は金持ち。栄光の今都市民様が安曇河の貧民に仕事を与えてやろう)
ズルッ!チュルチュルチュルッ!ガフガフガフッ!クッチャクッチャ……ゲフ~!
「おかみさん、あのお客さん、なんちゅう喰い方ですか?」
「他のお客さんが皆、帰ってしもたなぁ」
賑やかな音を立てて食事をすすりこむ他谷。周りの客は「今日は止めておくよ」「静かに食べたいから持ち帰りで」と言いながら帰ってしまった。
「それにしても不思議ですねぇ」
「ほんま。不思議やねぇ」
チュルチュルッ!シュルシュルシュルシュルッ!ガフガフガフガフッ!クッチャクッチャクッチャ……ゴックン!……ゲフ~!
持参したマヨネーズをこれでもかと搾り、食事にかける他谷。左手には焼酎の入ったグラス、右手に箸。両手がふさがっている。マヨネーズでヌルヌルになった食事だから箸でつまめない。皿へ覆いかぶさるように、パン粒1つ逃さない様に吸い込みながら食べている。空気と一緒に食べるのだからゲップを何回もするのは当然だろう。
新品だった業務用サイズのマヨネーズはほぼ空になっている。
「何でトンカツをすすって食べはるんやろ?」
「ほとんどマヨネーズを呑んでますよね」
カラリと揚がったトンカツなのにマヨネーズでヌルヌルのベチョベチョになってしまっている。料理人は呆れ半分で他谷を見ていた。
「お蕎麦でも食べてはるみたいやねぇ」
「蕎麦は粋に食うもんです」
「営業妨害レベルの食べ方ですね。出入り禁止にしますか?」
「次に来はるなら、要予約・貸し切りにして貰おか」
安曇河の料理屋『かねだ』では従業員たちが嫌悪の眼で他谷を眺めていた。
「じゃ、出前行ってきます」
本日のかねだの営業はほぼ出前。岡持ちを乗せたカブは、青白い排気ガスを出して走り出した。
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