第99話 磯部・大島と一夜を過ごす
「大島さん、今夜空いてる?呑まない?」
土曜の夕暮れに女性からの誘いを受けて気乗りしない男がいるだろうか。それが妙齢の美女なら断るわけが無い。
「お? 磯部さん、デートのお誘いかな?」
秋が深まったせいか磯部さんは長いスカートとコートだ。きれいな脚は見えないけど暖かそうだ。女の子は体を冷やすといけないので安心だ。
「話を聞いて欲しいのと、一人でご飯を食べるのは寂しくて。それに……今日はとことん呑みたいから」
磯部さんくらいの美人なら誘えば何人かついてきそうなのに。
「とりあえず待っててな。店を閉めんとアカンから」
誰かと食べる夕食も悪くない。普段より少しだけ店を早じまいして飯を食いに行くことにした。
選んだのは安曇河郵便局の傍にある少し小奇麗な焼肉屋。サイドメニューが多いから女性と来るにはお勧めだ。彼女はビール。俺はウーロン茶。
少し酔いが回って来たのか。彼女はジョッキを片手に話し始めた。
「私も三〇歳。親もいない一人暮らしだから寂しくて……」
「ふ~ん。はいバラ」
焼けた肉を彼女の皿へ移す。
「でね、素敵な人に出会ったと思った訳なのよ」
グイッとジョッキを空ける磯部さん。少し心配なペースである。
「空きっ腹で呑むと悪酔いするで。お肉も食べんとアカンで」
店員を呼び、ビールと肉を追加する。
「まぁ、今日は思い切り呑んで食いましょう」
「一緒にね、ツーリングに行ったりして気が合うなって思って」
「ほう。お相手もバイク乗りですか。ゼファーでツーリング?」
最近は女の子の方が酒に強い気がする。磯部さん……ピッチが速い。
「年下の
「うん?」
グイとジョッキを煽る磯部さん。ペースが速いなぁ、速過ぎじゃないか?……大丈夫かな?
「無理だって言うのよ」
「磯部さんほどの美人を振ったんか? 勿体ないなぁ」
「よりによって、あの子ね……女性だったの……うぅ……どうせ男日照りよ! 男と女の区別もつかないのよ私はっ!」
泣き出した磯部さんを前にオロオロするしか出来なかった。
まさか……悪い予感がする。
「あんなイケメンで女だなんて~! 葛城さん酷い~! エ~ン! 酷いよ~!」
ああ、やっぱりこのパターンだ。
(こんな所をご近所の奥様方に見られたらマズイ!)
「うん。呑もう!全部忘れる為に呑もう!食おう!」
酒を飲まない大島にとっての災難が始まった。ムードもエロも無い地獄の一夜の始まりであったのをこの時は知る由も無かった。
以前、何かを伝え忘れていると思っていたが、葛城さんが女性であることを伝え忘れていた。俺はウッカリさんだ。 磯部さんが葛城さんと連絡を取りたがったりしていたのはカブ友達になりたいのではなくて男性と思って惚れてたからか。えらいこっちゃ。とんでもない思い違いだ。
「ほら。最近は女性同士でも……」
俺の不用意な一言は火に油を注ぐようなものだった。
「女の子にモテるのは嫌やもん。ずっと『お姉さま♡』なんて言われてきたのに!だいたいお祖母ちゃんが悪いのよ!『あんたは御転婆おてんばやから女らしゅうしなさい』って言うから女らしくなったのに! お祖母ちゃんのバカァ! エ~ン!」
(あかん。このままやと店に迷惑が掛かる)
「場所を変えましょう。すいません、御勘定」
磯部さんは少し眼を離すとジャンジャン酒を頼んで飲んでしまう。
「やだ~!もっと呑む~!」
クールビューティーどころか完璧に酔っ払いだ。仕方が無いので家に連れて帰ることにした。ツマミなら作れる。酒も少しはある。とにかく店に迷惑をかける前に出なければヤバい。
「うんうん、じゃあ俺の家で宅呑みしよっ! なっ!」
「つまみが無きゃやだぁ~! ご飯!」
「分かったから!食べる物は一杯あるから」
大暴れする磯部さんを車に乗せて何とか連れ帰った。
「私だって恋はしたいんだ~!」
「わかったから! もうちょっと静かに……あ、奥さんどうも」
何事かと飛び出してきた奥様に会釈をし、何とか磯部さんを居間へ運び入れた。
「磯部さん、ちょっと水を飲んで落ち着きましょう。ね?」
「やだ、お酒が良い。お酒じゃなきゃ騒いじゃうぞ」
目が座っている。仕方ない、何か出すか。
「梅酒とビールしか無いですけど、どっちにします?」
「ビール~♪」
梅酒は自家製。焼酎の味にもこだわった特別仕立て。ちょっと残念だ。漬け込んでから二年の飲み頃なのに。
「『僕もバイクに乗ってます。ツーリングに行こう♡』なんて言うくせにいざ私がゼファーちゃんに乗って行ったら『用を思い出した』ってドタキャンよドタキャン!世の中の男はどうなってるのよ!」
お願い……あまり騒がないで……。
冷蔵庫からビールと魚肉ソーセージをもって部屋へ戻ったら磯部さんは少しおとなしくなった。魚肉ソーセージは偉大だ。
「世の中の男はだらしなさ過ぎる。どいつもこいつも酔いつぶれやがって」
学生時代に口説こうと寄って来た男どもを尽く酔い潰してきたと語る磯部さん。見る見るうちに空のビール瓶が増えていく。
「私は!……私は……ふえぇぇぇ……寂しいよぉ……」
彼女は電池が切れたようにコテンと転がった。
磯部リツコ三〇歳。初めて酔いつぶれた夜だった。その晩、大島家の客間から声が聞こえた。
「……っ。痛っ……痛いっ」
「う……出る」
「ちょっと待って……そこはダメ……らめぇ……やだぁ!」
ギシギシと床がきしむ音。パシパシと打ち付けるような音。
「お願いっ! 放してっ!お願い……痛いっ! 抜いてっ!」
「……駄目」
「痛いっ!放してっ!奥まで挿れないでっ!」
吐き出された液体がリツコの体を
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