第83話 完成・リトルカブ90
リトルカブの登録の為に、市役所へ行った。
白ナンバーで登録。すぐに廃車。公布されたナンバーを使わず返す。次は排気量変更の手続き。原動機付き自転車一種から原動機付き自転車二種登録へ変更して黄色いナンバーを交付してもらう。ナンバープレート一枚と時間が無駄ではないかと思う。
時間が掛かろうが手間が掛かろうが気にせずのらりくらりの対応。毎度の事ながら御役所仕事にはイライラさせられる。
受け取ったナンバーは取り付ける前にクリヤー塗装をしておく。何年間置いてあったか解らないナンバープレートは日光に当たると急激に劣化して粉を吹く。その予防だ。
磯部さんのリトルカブは完成した。緑のボデーと白いレッグシールドはいつものカブと同じだが、小ぶりなキャリアや全体に少し丸い車体は何とも愛らしかった。
だが、大島の表情は冴えない。
「磯部さんは大人の女性やのに、可愛らしくしすぎたかなぁ?」
◆ ◆ ◆
送信先:大島 中
本文:リトルカブが完成しました。
大島から送られてきたシンプルなメールをニヤニヤしながら読むリツコ。幸いここは保健室。どんな顔をしてメールを見ていようが誰もいない。
『帰りに寄ります。ちょっと遅くなりますけど良いですか?』……送信っと。
すぐに返信が返ってきた。
『お待ちしています。店が閉まっていたら携帯を鳴らしてください』
帰りに寄ろう。幸い、今日の仕事は少ない。
退勤時間となり、リツコはいつもより少しだけ早足で駐輪場へ向かった。
いそいそと帰るリツコ。愛車ゼファーに跨り、イグニッションをONにする、ある者はタイトミニのスカートから伸びる足に見惚れ、ある者はその美しさに恐れおののく。高嶋高校に居る男子全ての視線を一身に浴びるクールビューティー。
しかし、その中身はお転婆娘。
(大島サイクルへレッツGo! かっ飛べゼファーちゃん!)
生徒と大差のないバイク女子だった。
「おっと、制限速度は守らなきゃだね」
違うのは自制心が在る所だろう。大型バイクに乗っていてもスピードを出し過ぎない。免許を汚すような乗り方は決してしないゴールド免許保持者である。
厳つい見かけだが、ゼファーではスピードを出すバイクでは無い気がする。出せと言われれば時速二〇〇㎞くらい出そうな気はするが速度を求めてスロットルを捻るより排気量からくるゆとりを楽しむ方が良い
……リツコはそう思っている。
国道一六一号線をひた走り、すっかり暗くなった中、大島サイクルの到着した。スーパーカブやモンキーが停めてある店に ゼファーが並んでいるのを見ると大きなバイクだなとリツコは改めて思った。
乗っている時は全く重さなんか感じないのだが。押すのが重い。
「こんばんは。リトルちゃんを見に来ました~」
リツコが店に入るとココアを飲みながら葛城が出迎えた。
「おじさんはトイレに行ってますよ。ちょっと待ってですって」
( 年甲斐もなくはしゃいでいるのを見られてしまった……)
前回は泣いている所、今回ははしゃぐ自分。神は何故私の恥ずかしいところを彼に見せる?
(大人の女としてこれ以上彼に醜態をさらすことは出来ない)
リツコは気を引き締めた。
「リトルカブ、可愛いですね~」
「そうね。普段乗りに欲しかったから丁度良かったわ」
微笑む葛城ににやけそうになる磯部だったが必死になって大人の女性を演じた。
「私もカブなんですよ。普段のバイクが大きいから小さい可愛いのが良くて」
「そう、普段乗りに丁度良いから欲しくなったのよ」
リツコは今まで色々な男に言い寄られてきた。男達のギラギラとした獲物を狙う様な眼が怖くて、ずっと冷たくあしらってきた(そのおかげで独身である)
この青年にはそれが無い。
「ゼファーは大好きだけど、お買い物やちょっとしたお出かけには重くて。それに、そろそろ大事にしてあげないといけない年式ですから」
精一杯『大人のオンナ』を演じているリツコだが、内心は何時子供っぽい自分が出るかとヒヤヒヤしていた。
「おじさんが作ったカブは良いですよ、長距離でもOKです」
「そう」
長距離を走れることを利用してツーリングのお誘いか……やっぱり、この人も男なんだなぁ。体が狙い?でもこの人ならいいかな?
そんな事を思い始めた時、大島が店の奥から現れた。
「店番を頼んでしもてすいません。あ、磯部さんいらっしゃい」
「じゃあ、私はこれで。また何処かでお会いしましょうね」
葛城は店を後にした。
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