第70話 社外ボアアップキットが気になる

「ノーマルヘッド対応ボアアップって何ですか?」


 尋ねてくるのは速人だ。部活をせずバイクばかり触っている。 学校以外はバイトとバイク弄り。ある意味バイク部だな。学業は順調。バイクの維持費は自分で稼いでいるなら文句は無い。


 速人はバイク弄りに関してはなかなか筋が良い。最近の子にしては器用だ。そう言えば、ジャンクか修理した時に外したピストンが有ったな。


「右が速人や理恵のエンジンに使ってるピストン。左がノーマルヘッド対応。」


 ピストンの頭部形状が盛り上がっているか凹んでいるかが違いだ。 何も言わずに見せる。解ればシリンダーヘッドの事も教えてやるか。


「ノーマルヘッド用は凹んでるんですね」

「そうや、理由は(シリンダー)ヘッドを見たら一目瞭然」


 うん、合格。次はシリンダーヘッドも説明しよう。


「こっちがカブ90のヘッド。こっちはカブ50のヘッド」


 シリンダー容積÷燃焼室容積=圧縮比……だったかな?


「50のヘッドは燃焼室が小さいから、ピストンの頭が盛り上がった奴を使うと圧縮比が上がり過ぎてノッキング(異常燃焼)を起こしたりする。そこで圧縮比を適正にするのにピストン頭部を凹ませて帳尻を合わせるんや」


「キャブレターの穴も小さいですね。」


 そうやな。よく気が付いた。


「カブ70・90用はシリンダーの容積が大きい分、混合気や排気ガスが通りやすいように ポートもバルブも大きくなってる。50は」


「じゃあ、ノーマルのヘッドを使う場合はパワーが出ないんですか?」


「排気量自体は大きくなるからパワーアップはする。ただ、もう一息が

 足りん気がするな。息苦しく回る感じと言うか糞詰りな感じやな」


「でも、2種登録したい場合に使うのは有りですよね。」

「そうやな。お手軽にするなら有りやな。でもウチは中古部品が揃ってるから純正シリンダーヘッドで組んでるけどな。領収書や部品の説明書がないと登録を受け付けん自治体もあるらしい。高嶋市でも支所によって違うみたいやしな」


 朽樹と蒔野は知らんけど、真旭・安曇河は少し厳しいらしい。今都はグダグダだそうな。Tataniのバイクを見ていればわかる。


 グダグダ対応の支所に行ってハーレーを原付で登録するようなヤクザな事をやる店じゃないけどな。ウチは。


「社外品のヘッド込の値段は……えっ? 6万円!」


 速人が驚くのも無理はない。


「少量生産で性能を追求するとそんなもんかな。性能では勝てんけどコストパフォーマンスを考えると純正は悪くない。腹八分って在るやろ? もう少しが足りんと思うくらいが丁度良い訳や」


「エンジンコンプリートで30万円以上する!本体以上ですね!」

「そうや。中毒患者ジャンキーになると、そこまで求めるようになる。気ぃ付けやジャンキーになってしまうと大変な事になってしまうで」


「どうなるんですか?」


 バイクマニアがカブやモンキー弄りの泥沼にはまり、純正流用・社外パーツを組み合わせを追及してバイク中毒となった場合、末期症状は速人の目の前に居る俺だ。


「おっさんみたいにバイク屋になる」

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