2017年9月 残暑の季節
第61話 閑話 9月の大島サイクル名物
9月に入り、急に暑さが和らいだ。
この時期、大島サイクルにはバイク以外の名物が有る。
大島お手製の無花果ジャムである。
大島の家には先祖代々の田畑が有るのだが、国の減反政策の一端で
一部の田んぼを転作して無花果造りを行っている。
とは言っても大した面積でもない。トラクターやコンバインなんて
買って作業すれば確実に赤字なので、近所の農家に貸し出して
賃料を貰わない代わりに何かが出来た時のおすそ分けを貰っている。
それが無花果なのだ。
熟した無花果はお尻の部分が割れる。美味いのだが
割れ目から害虫のハチが卵を産みに入るので出荷が出来ない。
味が良いが出荷が出来ない物を大島は山の様に貰ってくる。
作り方は簡単だ。
皮を剥いて冷凍しておいた無花果を同量の砂糖と一緒に煮詰めるだけ。
ヘラで潰しながら焦げ付かない様、かき混ぜながらひたすら煮る。
無花果は酸味が無く味が締まらない。
仕上げにレモンの搾り汁を混ぜてやると味が引き締まる。
煮詰め続けると、とろみが出てきてジャムらしくなる。
更に煮詰めていくと苺ジャムとは違った淡いピンクのジャムが出来上がる。
冷凍しておけば半年は保存できるはずだが、実際はどうか知らない。
1か月くらいで無くなってしまうからだ。
煮沸消毒したビンに詰めると見た目も美しい。
大島サイクル周辺の奥様方には好評だが、大島は満足していない。
「やっぱり母ちゃんの味は出せないか・・・。」
亡くなった母を思い出して呟いてしまう。
甘い香りが漂い、ご近所の奥様方は大島がジャムを作る季節になった事を知る。
「
「おう。下手の横好きやけどな。出来たわ。」
瓶に詰めたジャムを渡す。
「下手に家事が出来るからお嫁さんを貰わないのよね~。」
「バイク以外に妙な女子力が有るのよね~。」
もう何とでも言ってくださいな。40男のささやかな趣味でございます。
俺は安曇河の自転車屋。でも、今日はジャム作りのおじさん。
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