第53話 高嶋高校図書室にて

課題を片付けるために図書室に集まった同級生4人。

速人・綾・亮二は暇つぶしに読む物を探している。


理恵は半泣きになって課題を片付けている。


「『オートバイの科学』か。古い本やな」

速人が読んでいると2人が寄って来た。

「へ~。ロードボンバーね~」

「亮二君が乗ってるバイクみたいだね」


オフロード用の軽量な単気筒エンジンを

バランスの良いフレームに載せたバイクの話だ。

亮二のエイプ100と似ていると言えば似ているかもしれない。


「あなたたち。卒業レポートも面白いわよ」

騒ぎ過ぎたのを抑える為か司書が声をかける。


「2年になったら準備しなければいけないしな」

「参考になるかもしれないね」

「お父さんの卒レポとかないかな?」


綾は父親の年齢から推測した年度の卒業レポートを

手に取り、目次を調べ、声を上げた。

「あれ?」


「どうした?」


「これって大島のおじさんじゃない?」


『湖岸道路と国道161号線における自転車競走について A2コース2組 大島 中』


「あのおじさんも高嶋高校OBなんだ」

「この頃はバイク通学不可だっけ?」

「読んでみるか?」

◆      ◆      ◆


平成〇年。

高嶋高校では生徒間での自転車レースは過熱し、死亡事故が起こった


ヘルメットの着用義務が無く、速度違反の取締りも無い自転車は

バイクより危険な物となり、校則で厳しく規制される事となった。

生徒指導にも限界があり、学校が手におえる範囲ではなくなったために

『バイクに乗らせて取締は警察に任せる』事になった。


スピードを求める者はバイクに乗ることになったが、高嶋郡(当時)では

就職するには通勤用に自動車免許が必須だった。

無茶な運転をしてバイクの免許が取り消しになる様な事になれば、

卒業後に数年の間、自動車の免許も取れなくなる。


大学に行く連中はまだしも、就職組で免許が取れないのは死活問題になる。


結果としてバイクで通学する者は交通マナーを守ることになった。


一方、無法状態だった自転車は自転車部(現在廃部)以外の生徒は

ロードレーサー・4段以上の変速機付き・ドロップハンドル

競技用自転車ピストレーサーが通学で使えなくなり、

自転車通学者は学校の近所に住む者ばかりとなった。

湖岸道路や国道161号線を走る者は減り、競争と事故は無くなった。


一方、同じ郡内(当時)に在る安曇河高校は自転車・バイク通学を全面禁止した。

事故の原因となるものは排除するという考えだ。

邪魔な物は排除するという校風は今都の生徒が多く通っているからだろう。


……と、大島のレポートではその辺りの事情がまとめられていた。


実は高嶋高校のバイク通学関係の校則はこのレポートを元として

大島が卒業した次の年度に決められた物だが、理恵たちは知らない。


「ふ~ん。おじさんも高校生だったんだね」

「あのオッチャンがね~」

「平成初期に事故が多発したって聞いた事が有るな」


理恵はひたすら課題をこなす事に集中している。


「高校生の頃から自転車漬けだったんだね」

「そのまま自転車屋さんになったのかな?」

「さぁ?」


◆      ◆      ◆


「ヘックション!……誰か噂でもしてるんかな?」

夏風邪だろうか?朝から大島はムズムズする鼻に悩まされていた。


『8月15日~20日まで盆休みとさせていただきます。店主』

夏季休業の張り紙を張る。毎年の恒例行事だ。


お盆は部品商やメーカーが休みになる。

部品が入って来なければ修理が出来ないので、大島サイクルも休みだ。


(さて、今年はどう過ごすかな。)


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