第52話 それぞれの夏
久しぶりの有給で体は楽になったが、気分はスッキリしない。
中村は高嶋で聞いた事を社長に話した。
「何があったんですか?」
聞いてくる若いメカニックたちに中村は動画を見せた。
「高嶋のバイク店が言うには、この動画のバイクが
Tataniの客らしい。ナンバーを見てみ。」
「・・・・・。」
「高嶋市ナンバー・・・原付登録か。」
「何で原付登録出来るんだ?」
驚きを隠せないメカニック達。
「地元では評判が悪いらしくてな。整備を引き受ける店が無い。
そこで、遠く離れた対岸のウチまで持って来る訳やな。
こんな事してたら、そらなぁ・・・。」
「・・・・・。」
「書類が積んでなかったりナンバーが付いて無いのは・・・」
「多分、不正登録を隠してるんやろうな。
どう対処するかは社長の指示を仰ごうか。」
「お~い。ちょっと良いええか?」
事務所から出て来た社長は工場の整備士に
今後Tataniのバイクに限らず
ナンバーと車検証・書類が無い場合は整備は引き受けない。
持って来ても整備は引き受けないことを伝え
「他の店とも話をする。」と事務所へ戻っていった。
◆ ◆ ◆
「琵琶湖の反対で整備に出しとったんか?」
大島が渡したアイスキャンディーを齧りながら
高村ボデー社長の高村は驚きの声を上げた。
「ナンバーを外して整備に出しているみたいですね。」
「向こうは何も知らんと修理してる訳か。」
「そうみたいですね。工場に戻って上と相談するみたいですよ。」
「ついでに周りにも『Tataniは怪しい』って伝えてくれたら
追い詰める事が出来るんやけどな。その辺はどう言うとった?」
「そこまで話はしていませんけどね。」
「まぁあれや。向こうで噂になれば、そのうち警察も動くやろう。
こっちは田舎で緩やかな所が有るからな。」
高村社長がニヤリと笑う。
「社長、それを狙ってましたね?」
「フフ~ン♪」
高村社長は機嫌良さそうに扇風機の風に当たっている。
この人を怒らせると怖い。敵に回す事だけは
避けなければならないと思う大島であった。
◆ ◆ ◆
「あのさ、こんなに天気が良いのに、何で私たちは
こんな所でノートを広げてるわけ?夏休みなのに!」
と、不満を言う理恵に
「『冷房が効いたところで勉強しよっ♡』て言ったのは誰?」
「『綾ちゃんも来るよ♡』だったっけ?」
綾と速人がつっこんだ。
高嶋高校の図書室はエアコンが効いて心地よい。
夏休みの小学生や親子が来ることも無く
静かで課題を方付けるにしても読書するにしても
快適な空間なのだ。
「何であんた達は余裕なのよ~」
「「予定を組んで計画的に課題を片付けたからです。」」
「じゃあさ、亮二は何で余裕なんよ?」
「俺は7月中にやっちゃう派。8月は遊ぶだけよ♪」
「じゃあ何で来たの?」
「「「お前が『勉強教えて~。』って泣きついて来たからや!」」」
3人につっこまれては元気満点の理恵でも太刀打ちできない。
半泣きになりながら課題に向かうのだった。
「俺達は本を読む為に来たようなもんよ。
解らん所が有ったら言うてな。」
3人はそれぞれ読む物を探しに本棚へ向かった。
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