第51話 対岸の自転車店

「ここが大島サイクルか。」


特に変わった所は無い。強いて言えば平成になって四半世紀を

過ぎた現在で、存在するのが不思議に思えるレトロな

自転車店であることが特徴と言ったところか。


店主は何て事の無い田舎のオッサンだ。

年季が入った作業着と、油汚れの染み着いた手は

機械弄りをする者の特徴。スーツで接客する店とは

雰囲気が全く違う。


愛想が無いのはアポ無しで訪れたからだと思っていたが、

どうやらそうでもないらしい。常連でも同じ対応みたいだ。


Tataniの事を尋ねると、

「皆の話も聞いた方が良いんとちがうか。」

と何人か知り合いを呼んでくれた。


どうやらTataniは地元での評判が悪く、どこの工場も

修理を引き受けないらしい。以前は整備士メカニックは居たらしいが

いつの間にか辞めたらしい。


「それで琵琶湖の反対に在るウチの工場に発注してる訳ですか?」


「そうと違うかな?この辺りで整備を受ける所は無いよ。」

「整備を受けてたところが、無茶な納期やクレームで悩まされてた

みたいで体調を崩して休業してたしな。」


「ウチより近くの大津の整備工場に出す事は無さそうですか?」


「大津で家を買えん奴らが田舎に来て金持ちぶってるだけやからな。」

「本物のお金持ち連中と比べられると辛いわな。」


店だけではなく客も嫌われているらしい。類は友を呼ぶと言う事か。


「ところで、この前の161号線の事故って詳しい事は解りますか?」


「免許取立ての高校生が大きいバイクに乗って事故ったんや。」

「多分やけどTataniの客やな。」


「ウチのお客さんに高嶋高校の生徒がいるけどな、 外部に何も言わん様に言われてるみたいで、詳しい事は解らんのや~。」


「動画サイトに出てたやろ。何で検索するんやったっけ?」

「原付ハーレー 年寄り マナー で検索やったと思うで。」

「パソコン持って来る。」


店主が持って来たパソコンで検索をすると動画が出て来た。

「な、原付のナンバーやろ?」


Tataniで聞いたのは本当だったようだ。

(ナンバーは外してから持って来てたのか?)


「こんな事をするから(整備を)断られるんや。」

「まぁ、客も客やけどな。」


Tataniの話以外にバイクの話で盛り上がり、

夕方まで話し込んでしまった。


暗くなった湖岸道路を走りながら


(社長に報告しないとな・・・)


中村は帰路を急いだ。


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