第29話 理恵の恋④

 スマホを確認した葛城さんは意を決して告白した理恵に笑顔で返事をした。


「いいよ。何処どこに行くの? 買い物? バイクイベント? 今度の日曜に浜大津でイベントが有るの。一緒に行く?」


 予想外の天然ボケ返しである。


「葛城さん。そうじゃ無くて、理恵は恋人になってくださいって意味で付き合って欲しいて言うてるんですよ」

「ゴメンなさい。そういう意味だとは思わなくて。でも無理です」


 困ってはるな。当たり前だ。未成年と付き合うのは色々と問題が在る。でも、あまりにひどい断り方ではないか。一刀両断だ。


(子供相手に一刀両断せんでも良かろうに……)


 理恵はボロボロと泣き始めた。まるで花粉症の子猿だ。


「……私が子供だからですか?」

「そうじゃなくて……えっと、どう言えばよいのかな?」


 解らないでもない。子供に告白されたところでどうしようもない。葛城さんほどの男前なら彼女の一人や二人いても不思議でない。


「はっきり理由を言ってください……」

「あのね、あなたが嫌いとかじゃないの。わかってね」


 理恵は涙と鼻水でグジュグジュになっている。申し訳ないが少しだけ面白い。


(頼む。この状況を何とかしてくれ)


「私……お付き合いするなら男の人が良いな」

「えっ!」


 ここで突然のカミングアウト。葛城さんはゲイだったのだ。フリーのイケメンにアタックしたらゲイだったというのは最近よく聞くパターンだ。


(最近は社会的に認められて来たもんな。理恵、残念やな……)


 そんな事を思っていたら、葛城さんはため息を一つついて少し不機嫌そうに言った。


「私、これでも女性なんだけど」

「「へ?」」


 驚く俺と呆然とする理恵に葛城さんは色々と説明してくれた。


「背の高い家系なんです。男性用の服しかサイズが合いませんから兄のお古を着ています。仕事柄髪の毛を伸ばせなくって……よく間違えられるんです」


 よく見るとまつ毛は長いし体つきも男性にしては華奢過ぎな気がする。


「兄もバイクに乗っていたんでウェアとか貰って着ていたんです」

 

 似合いすぎです。モデルじゃあるまいし。


「声がハスキーなのは自覚しているのですが……そんなにイケメン?」

 

 何とか大戦の男役劇団員みたいな声だから女性と思わなかった。そういえば学生時代に女子にモテる女子が居たなとそういえばこんなキャラが出てくるゲームが在ったなと思いながら聞いた。


 理恵はポケーとしている。声をかけても反応が無い。へんじがない……たましいがぬけているようだ。


 とんでもない間違いをしていた。客商売として最悪だ。


「いろいろと御苦労をされたのでしょうね。大変ですね」


 思考がまとまらない。


「お付き合いは出来ないけど、友達になってほしいな。理恵ちゃん、電話番号を交換しない?」


 微笑みながら理恵に話しかける葛城さんは……すまん、イケメンにしか見えん。


「します~」


 徐々に魂が戻って来たらしい。


「今度の日曜日にバイクのイベントに行かない? 多分楽しいよ」

「行きます……」


「速人も誘ったらどうかな?たまには遠出も良いぞ」

「うん……誘う……」


「四人で出かけるとなればインカムが欲しい所ですね」

「インカムか、持っている所は在ったかな?」


 俺はソロツーリングがメインなので持っていないのだ。理恵と速人は通学ライダーなので持っていない。


(どこか持っている所に貸してもらうか)


「白バイ用を借りるんですか?」


 理恵はまだ呆けているようだ。


「装備を私用で使うことは出来ないよ。兄の伝手つてで借ります。 多分、まだ持っているとは思うんですけどね」


「ウチの方でも当たっておきます。無ければ大声でいきましょう」


 こうして、理恵は失恋したが、イベント見物を兼ねたツーリングをする事が決まった。


◆        ◆        ◆


 翌日、速人が店に来てくれた。速人が言うには理恵から事の顛末を聞いた綾ちゃんや佐藤君、その他のクラスメイト達も必死になって笑いを堪えたり笑いをこらえきれず笑い転げたりしたらしい。


「『も~~~!』って言ってましたw」

「お前かて間違うはずや」


 出掛けるのは大丈夫らしい。これで四人だ。


 インカムは知り合いに声をかけてみたら中古が買えた。オークションに流すより手間が掛からないと格安で売ってくれた。 見てくれはイマイチだが使えればOKだ。


「何だか白バイみたいですね」

「白バイはもう少し強い(電波)らしいけどな。マイクテスト・マイクテスト。聞こえますか?」


「はい聞こえます。こちらの声は聞こえますか」


 耳元に音源が在ると聞き取りやすい。エンジンが唸ろうが、風が吹こうがこれで安心。


「はいOK、あとは女子二人やな」

「パワーチェックとか大規模なイベントみたいですね。僕のモンキーもチェックしてもらおうかな?」


 残念だが、速人のモンキーは自慢するほどパワーは無い。


「その辺りはもう一人の女の子が手配してくれるから任せてる。天気は大丈夫みたいやし、ツーリングを楽しもう」


 今回は保護者の役目がある。万全の態勢で準備しなければいけない。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054884170119/episodes/1177354054884171573

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