第27話 理恵の恋②

(朽樹の牧場シュークリームとソフトクリーム……美味しかったな)


 排気量アップと4段ギヤのおかげで長距離移動が苦で無くなった葛城のカブ。増えた排気量とギヤで行動範囲を広げた葛城は、今日も甘味巡りをして休日を楽しんでいた。朽樹から今都へ抜けて湖周道路を通り安曇河へ帰る。


(そうだ! 藤樹商店街には丁稚羊羹の美味しい店が有ったんだ)


 次なる甘味に思いをはせて信号待ちをしているとポコポコと排気音が迫って来た。


(私のカブと同じ音がする……)


 ミラーを見るとホンダゴリラが写っていた。


(や~ん♡ 小さなバイクに小さな女の子。可愛い~♡)


 ミニチュアの様なホンダゴリラと女の子を見ていたら信号が変わっていた。


(あ、いけない……発進)


 発進が遅れているうちにペコポコと排気音を残してゴリラが先行した。


 追ったつもりはないが葛城のカブは大島のスペシャルエンジンだ。90㏄の排気量と絶妙なギヤ比で加速する。意識しなくても車間距離は縮まった。


(あれ?このゴリラって……)


 見覚えのあるゴリラだ。


(この前は悪い事したな。バイク友達になれないかな?お話したいな……)


 もう少しスロットルを開ければ追いつきそうだったが、葛城は無意識のうちにスロットルを緩めた。時速60㎞。葛城は無意識のうちに法定走行を守って走る癖がある。


 ゴリラは加速しているのか、徐々に引き離される。


(速度超過……でもメーター誤差の範囲だねぇ)


 徐々にゴリラの姿は小さくなり、見えなくなった。


(ゴリラだと大島サイクルのお客さんかもしれない)


 商店街には丁稚羊羹の美味しいお店がある。


(羊羹を買ってから寄ろうっと♡)


 葛城はカブのハンドルを大島サイクルの在る藤樹商店街へ向けた。

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