第26話 理恵の恋①

走り屋のメッカ県道304号線。通称湖周道路


「こ……こいつ……まさか……」


背後にミニバイクが張りついて離れない。

メーターは振り切っているが車体はまだ加速する。

だが振り切れない。ミラーからミニバイクの姿が消える。

ミニバイクは私を追い抜いて行った。

まるで狂おしく身を捩る様に……


「これはアカンやろ?」

理恵が考えた小説のあらすじを見た大島が言った。


「女の子とバイクの組み合わせは悪くない。走り屋に注目するのも解らんではない。でもこれは駄目!」


「なんで~?女の子とバイク。公道最速を目指すライダーの話。 絶対売れる組み合わせじゃないの?」


「あのなぁ……狂おしく身を捩る……昔あったぞ。漫画で。このミニバイクが『悪魔のZ50』とかになるんと違うんか?『地獄のチューナー』とか出すんと違うやろな?」


「な……何で解るん?おっちゃんエスパーなん?」

「とにかくアカン!それに公道最速って何やねん。危ないがな。公道で危ない事は駄目。それだけは解ってくれな」


「このあと高村ボデーさんでフレームの補強……」


「それもアカン!」


「じゃあ、壊れ物を山道を通って配達する話は?」


「駄目だねぇ」


……そんな事が有ったのだ。


(大島のオッチャンはもっと本を読みなさいってか……)


そんな事を考えていると信号が近付いてきた。


赤信号で停まっているとカブが止まっていた。


(スーパーカブの小説は最近出たんだよね。ゴリラで小説を作りたいな)


理恵はカブの後ろに付いて止まった。信号が変わったのにカブは発進しない。理恵は青信号で発進しないカブに苛立って追い越した。


何人なんぴとたりとも私の前は走らせない……ってのは駄目かな?)


追い抜いたカブが走り出した。ミラー越しに姿が大きくなる。


(追いかけて来てる…もしかして変質者?)


以前しつこく付きまとわれて必死に逃げた事が有る。あの時はバイク屋の勧誘だったが今度は違うかもしれない。アクセルを全開にした。


1・2・3速と加速して4速に入れた。4速は加速が鈍い。

メーターの針は振り切っている。正確な速度は解らない。


それでも走り続けると、徐々にカブの姿は小さくなった。


(振り切った……)


理恵はアクセルを緩めて巡航を続けた。琵琶湖を左手に眺めながら時速60㎞で走り続ける。真旭から国道161号線バイパスへ乗る。


(おっちゃんの店で休憩してから帰ろうっと)


蒼柳北交差点を曲がって大島サイクルへゴリラを走らせた。



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