第四十三話 ブタっぽい俺のヒドラ狩り④ ブタとヒドラの食物戦争
まず最初に動いたのは俺だ。
俺は首を切ってもダメなら、六つ首ヒドラの胴体から先に仕留めてやろうと、多少の攻撃は受ける覚悟を決めて、ヒドラの土手っ腹に相撲のぶちかましをお見舞いしてやるために、ヒドラの懐目がけて思いっきり踏み込んだ。
だがそれを、ヒドラの二つの首が阻止しようと俺目がけて猛毒のブレスと炎のブレスを吐き出してくる。
当然俺に炎と猛毒。二つのブレスをかわせる身体能力はないために、俺はとっさに両手で顔を庇うが、ヒドラの二つ首が吐き出した炎と猛毒をまともに喰らってしまう。
ヒドラの炎を受けて焼かれた体は、焦げ付いていた皮膚をさらに焦げ付かせて熱を帯び、猛毒を受けた体は緑色に変色し、焼けつくような痛みを全身に行き渡らせる。
しかも、何度も炎と猛毒のブレスをまともに喰らいまくったために、さすがに俺の力作である防具。ブタの腹巻きも耐えきれなかったのか、鎧の接合部などを破壊されて俺の体から剥がれ落ちていった。
しかも運の悪いことに鎧を失ったせいで上半身丸裸となり、焦げていい匂いをさせている俺の体に向かって、残ったヒドラの四つ首が一斉に襲いかかって来る。
「ブヒィンッ!?」
炎と猛毒のブレスから顔を護るために、とっさに顔を両手で覆っていた俺は、一度に迫りくる四つ首の対処が全くできずに、悲壮な豚声を上げることしかできなかった。
そして、俺の四肢目がけて襲い掛かって来た四つ首たちは、俺のブタの様な脂肪で肥え太った巨体に巻きついて締め上げてきたのだった。
「ブッブヒッ!?」
俺は自分を締め上げてくる巨大な蛇のようなヒドラの四つ首の力があまりに強すぎて、身動きすることはおろか。辛うじて息を吐き出すことしかできなかった。
へ、蛇は全身筋肉で出来てるって聞いたことあっけど、こんなに締め付ける力が強いのかよ……。まじい。意識が……それに、最近まともな食いもんくってないから力が……入らねぇ……。
ヒドラの四つ首に締め上げられながら俺の意識は、朦朧とし始めた。
俺の様子をまじかで目にしていた四つ首たちは、もう少しで俺が落ちると思ったのか、「シャーッ」と蛇のような威嚇音を発しながら、巻きつく力をさらに強める。
しかもそこへ、先ほど炎と猛毒を吐き出して来た二つ首も加わって、俺の頭に巻きついてきたために、俺の体は上から下まで、ヒドラの六つ首たちに巻きつかれて見えなくなってしまったのだった。
ああ……俺は……ここで死ぬのか。でっけぇ蛇に飯を横取りされた挙句。せっかく集めたオーク肉の肉片すら食えずに、俺の飯を横取りした蛇に喰われて。死ぬのか。けどそれはひどく、ひどく、納得がいかねぇ。けど、もう、力が入らねぇ。入ったとしても、蛇の力が強すぎて身動きが、とれねぇ。取れるとすれば、口で息ができるぐらい……か。
ん? 待てよ。息ができるってことは、口が使えるってわけで、なら、動くことはできなくても食うことならできるじゃねぇか!
俺は悟りを開いた僧のように脂肪に埋もれた目を見開くと、力いっぱい大口を開けて目の前の肉に、喰らいついた。
「ギャウッ!?」
俺に噛みつかれた首が自分の身に何が起きたのかがわからずに、戸惑ったような悲鳴を上げる。
仲間の悲鳴を聞いたヒドラの首たちは、何が起こったのかを確認するために、一体、また一体。と巻きついていた俺の体から半身を剥がし始める。
俺の体から半身を離し、少し距離をとって状況を確認したヒドラの首たちは、仲間の首が俺に喰らいつかれ、貪られているのを目にすると騒ぎ始めた。
そう俺は、すべての力を口元に集めて、ヒドラの強固な鱗ごとヒドラの首に喰らいつきヒドラ肉を貪っていたのだった。
「ヒドラ肉って、高級鶏肉みてえでうんめぇぇぇぇえっっっ!!!!!」
俺は生で喰らったヒドラ肉のあまりのうまさに、ヒドラたちに体を絞めつけられているのも忘れて、驚喜の大声を張り上げていた。
そして、栄養満点のヒドラ肉を食うと共に、しばらく大した栄養を補給できていなかった俺の体にカロリーが満ち、力が漲り始める。
それをまずいと思ったのか、ヒドラたちが一気に俺を仕留めようと、俺の体から離していた半身を再び俺の体に巻き付けると、締め上げる力を強めてくる。
だが、一度ヒドラの肉を食ってしまった俺の頭の中では、もう自分の体を締め上げているのが、蛇でなく鶏肉にしか見えず、ただ俺は目の前にある鶏肉を食べ尽くしたい一心で、手足の自由を得ようと、涌き出る食欲のままに、力任せに両手両足を一気に大の字に開いて、「ブヒヒヒヒーンッ!」とブタ声を上げながら、巻きついてきたヒドラの首の拘束を振りほどいたのだった。
「ふぅ、ようやく自由になれたぜ」
ヒドラの拘束から逃れた俺は、久々に自由になった体の調子を確かめながら、これからどうやってヒドラ肉を手に入れるかを考える。
「あとの問題は、あのうまい高級鶏肉をどうやって手に入れるかだな」
うまいヒドラ肉を口にした俺の考えは、すでにオークキング肉を横取りされたための怒りではなく、いかにして高級鶏肉の味のするヒドラ肉を手に入れるかへと変わっていた。
「にしても、この体格差だと頭単体ならともかく。俺の必殺のボディプレスも通用しそうにないな」
だとしたら自分よりはるかに大きな相手をどうやって仕留めるか? 俺はリュックから長さ二メートルほどの先端の尖った串刺し用の串を取り出して、身構えながら自分よりもはるかに大きな体をしたヒドラを見上げて相対する。
「とりあえず、鳥肉は鳥肉らしく焼き鳥だろう?」
俺は二本の串を両手に一本づつ手にすると、大声を上げながらヒドラに向かって駆けだしていった。
「蛇野郎ってめえが奪ったオークキング肉のかわりにお前の鶏肉をよこしやがれ!」
ヒドラと俺の本当の死闘が幕を開けた。
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