第三十五話 エピソード獣人(けものびと)
「オルガッいい加減捕らえた獲物を村に持ち帰らねば、皆飢え死にするぞ!」
薄汚れた麻の服に、狼のなめし皮を身に着け、腰に森の草を刈る鉈と、背中に木で出来た弓と矢筒を持った茶色い犬の様な尻尾を垂らした見た目が三十代後半と言った感じの犬の獣人が、自分たちのリーダーで、自分よりも少し立派な弓と矢筒。それに小型の斧を腰に差している黒い立派な狼の耳と尾を持ち、獣耳と尻尾を除けば人とさして違いのない風体をした見た目三十歳ほどの狼の獣人のオルガに話しかける。
「わかっている。だが、奴がのさばっている以上、下手に動くわけにはいかぬ」
オルガは洞窟の出入り口の様子を注意深く探るように、視線を向けながら言う。
そうオルガの向ける視線の先には、幾つもの頭を持った巨大なヒドラが洞窟の出入り口をとうせんぼするかのように、とぐろを巻いて横たわっているのである。
そのせいでオルガたち狩人一行は、今いる洞窟から抜け出すこともできずに、ヒドラに悟られぬように狩人の知恵である自分たちの存在を獲物に悟られぬように、常備していた匂い消しの薬草を使いながら、半月ほどの期間ここで足止めを喰らっていたのであった。
オルガたちがこうなったことの次第は数日前にさかのぼる。
獣人であるオルガ率いる村の狩人たち総勢八名は、村の食料を得るためにオークを狙って、ヒステリア森林に分け入っていた。
しかしオルガたちは、中々思ったような獲物が見つからなかったために、普段あまり立ち入らぬ森の奥のさらに深くまで獲物を探し求めて分け入っていた。
そこでようやく森鹿を見つけたオルガたちは、足の速い森鹿の動きを制限するために、狩りの最中偶然見かけた洞窟に森鹿を追い込み、洞窟内で矢を放ち仕留めた。
そこまではよかったのだが、運の悪いことに仕留めた体長三メートルほどの森鹿の肉の解体を終えて、オルガたちがさあ村に帰ろうか。と思った矢先、巨大なヒドラが洞窟の入り口でとぐろを巻き、洞窟の入り口が閉じられてしまったのだった。
しかもオルガたちの侵入した洞窟には、出入り口がヒドラの居座る一つしかなかったために、どう足掻いても仕留めきることのできないヒドラを相手にするわけにも行かず、オルガたちは強制的に洞窟に閉じ込められてしまったのだった。
それから、半月ほどたちオルガたちがいい加減しびれを切らし、命がけで洞窟を抜け出ようとしていたころ、ずっととぐろを巻いていたヒドラが何かの匂いを嗅ぎつけたのか。重い腰を上げて洞窟から離れたために、オルガたちはようやくヒドラの巣穴から抜け出して、村に帰ることができたのであった。
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