第三十四話 ブタっぽい俺の箱庭⑥ ブタとジュースの木

 メインディッシュとはもちろん。蝙蝠たちのおやつエサである樹液だ。


 いや正確には、蝙蝠たちのエサである昆虫たちの主食のおやつエサか。


 多分蝙蝠は、甘いおやつエサを食べる昆虫たちを主食としているおかげで、あんなにも甘いおやつ肉を身に着けることになったのだ。


 ということは、蝙蝠たちは虫を通して間接的におやつエサを食べているだけであれほど甘くなっているわけだ。


 なら間接的ではなく直接的に体を甘くするおやつエサを食べたとしたら、どんだけ甘いんだよ!? と思った俺のおやつエサへの期待はすでに最高潮に達していた。


 ただ問題なのは、ここまできて木に登れない俺は、ここからどうやって、甘いおやつエサである樹液を手に入れればいいのだろう。ということだった。


 俺は木を見上げながら、樹液を手もとい。口に入れるための方法を考え始めた。


 登るのも無理。棒忍者マンガみたく駆け登るのも無理。だとすると、いっそ斧で木を切り倒すか? いや待て、それをしてもし木が枯れでもしたら、二度と樹液が飲めなくなっちまう。


「ん、ちょっとまてよ? 樹液か。確か樹液ってのは、木の血液のようなもんで、常に木の中を巡回してるんじゃなかったか? なら木の根元の近くにもあるんじゃないのか?」


 ふとそのことを疑問に思った俺は、昔テレビで放送された木の樹液であるメープルシロップを、木に穴を開けた後にストローみたいな管で取り出すシーンを思い出していた。


「うしっダメ元でやってみるかっ」


 これ以外に木から樹液を取り出す方法が思い浮かばなかった俺は、俺の口にしやすい位置にある木の幹の皮を剥いでから、大蝙蝠を串刺しにして焼いたために、全体的に大蝙蝠の甘い肉の油でギトギトになっている油ギったヌルヌルのハルバードを何とか手にすると、ハルバードの柄頭を使って、ダメ元で皮を剥いだ木の幹に突き刺してから引っこ抜いてみる。


 するとどうだろうか? 


 まるで水道の蛇口をひねるように、樹液が溢れ出してくるではないか!


「もったいねえ!」


 木の幹に開けた穴から溢れだす樹液を目にした俺は、木から溢れだす樹液を塞ぐようにして口をつけ、ゴクゴクと飲み始める。


「あんめぇぇぇえええええええっっ!!!」


 木から溢れ出す樹液を口で受け止めた俺は、口の端から樹液を溢れさせながら歓喜の声を上げた。


「蝙蝠肉なんかより甘い! しかもうまい! 何だこの木は! これじゃまるでっまるでっ天然のジュースの木じゃねえかっ!」


 念願のおやつエサであるジュースの木に辿り着いた俺は、満足いくまでジュースの木から止めどなく湧き出てくるジュースを飲み続けたのだった。


「ごっつぁんです!」


 満足いくまで(ジュースが出てこなくなるまで)ジュースの木を堪能した俺は、俺を満足させてくれたジュースの木に向かって、両手を合唱させてご馳走様をしたのだった。


 俺がそうやって、ジュースの木を見上げながらお礼を言っていると、ふと俺はジュースの木のある変化に気が付いた。


「ん? なんかジュースの木。さっきより元気なくね? なんかこ~やつれた様な。枯れ始めたような。葉っぱなんかさっきまでみずみずしかったのに、茶色っぽくなってるし」


 ジュースの木の変化を敏感に感じ取った俺は、少し悩んでからあることに思い至り納得する。


「あ~そうか、分かった。もうすぐこの森が秋になるから、葉っぱの色が茶色くなっていくんだ」


 ジュースの木の変わりようが季節による紅葉の一種だと思った俺は、首を縦に振ってうんうんと頷きながら一人で納得する。


 そうして当初の目的であるおやつエサである樹液。もといジュースの木を思う存分堪能した俺は、久々にオーク肉が恋しくなったので、いつもの野営地に向かって帰ることにした。


 そして、なぜか樹液を飲んでから、やたら体の調子が良かった俺は、手元にマジックリュックがあることもあり、狩った獲物の保存や持ち帰りの心配を気にしなくてよくなったため、いつもの野営地に帰る道すがら、ブタ鼻をブヒブヒとひくつかせて、ブタ鼻の匂いセンサーにひっかかったオークたちを全て一撃で葬り去り、仕留めたオーク肉を三十ばかり、超便利アイテムであるマジックリュックに入れて、野営地に帰っていったのだった。


「ヒャッホウ今夜はオーク肉パーティだぜっ!」

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